クイズで考える、わたしたちと生きものの未来
動物作家・篠原かをりが遭遇した生き物を軸に、生き物と自然環境についてお話します。クイズ形式で楽しみながら、身近な自然の魅力や生物多様性の重要性を改めて学べるます。一見、ヒト以外の生き物が存在しないように思える都会の喧騒の中にも、家の安らぎの中にも、小さな生態系が息づいています。日々の暮らしの中で見過ごしがちな自然とのつながりに目を向け、未来の私たちと生き物の関係について、共に考えていきましょう。
講座ダイジェスト
地球にいる生き物の種類と絶滅スピード
地球には人間が分類した動物だけで175万種いるといわれ、見つかっていない生き物を含めると500万~3000万種といわれます。現在は見つかった時点で絶滅危惧種とされる生き物がいるなど、絶滅スピードが年々速まっています。恐竜の時代は平均で1000年に1種類程度の絶滅スピードと考えられていましたが、50年前は1年に1000種、今は1年間に4万種という衝撃的な数字になっています。絶滅スピードが速くなってきた理由は、産業革命以降の人間活動です。しかし、絶滅していった生き物たちが弱いわけではなく、それぞれの強さを生き物たちは持っているといえます。
リスに学ぶ「非完璧主義」
強いイメージがないのに、強い側面を持つ生き物の一つがリスです。冬眠をしないリスは森のいろいろな場所に木の実を隠しますが、隠した木の実を食べ忘れてしまうことがあります。リスが食べなかったものをネズミなどが食べ、ネズミなどが食べなかったものが翌年の春に芽を出すといわれます。リスが隠すことによって木がなかった場所にも木が芽生えて、リスの子孫が代々暮らせる森が作られるのです。このように、たとえ物忘れをしても、世界とかみ合った時に大きなメリットをもたらすことがあるのです。
ここでクイズです。リスの仲間、アカリスはある変わった方法でキノコを食べます。それは何でしょう。
答えは「キノコを干して保存食にする」です。リスがよく食べるキノコは、人間にとっては毒キノコです。このように人間と体質が違う動物はたくさんいて、例えばハネオツパイという小動物は、アルコール代謝が得意でとてもお酒に強いのが特徴です。また、人間がよく食べるアボカドは、ほとんどの動物にとって毒ということが知られています。
ナマケモノに学ぶ「無理をしない」大切さ
ナマケモノは動かないことで身を守ります。ある地域のオオギワシという大きな鳥のふんを解析したところ、食べた物のほとんどナマケモノだったそうです。ナマケモノは見つけられた時に逃げるのが難しいので、動かないことで身を守ります。動かなければエネルギーを消費しないので、多くのカロリーを摂取する必要がないというメリットがあります。ほとんどの生き物が飢えていることを考えると、飢えずに済むのは生きていく上で十分な強みだと思います。
ただナマケモノも、週に1回程度、トイレをする時だけは木から下りて、木の根元にふんをします。木を降りることで、ナマケモノガというナマケモノの毛皮にしか住んでいない蛾の命がつながっていることが知られています。これは蛾のためだけにやっているわけではありません。蛾をたくさん毛皮に住まわせると、たくさんの窒素が供給されて体に藻が生えやすくなり、ナマケモノはその藻を食べているのです。また、毛皮に住まわせた藻はジャングルでカムフラージュにもなっています。
次のクイズです。ナマケモノはあまりにもご飯を食べないので、ヨーロッパで初めて紹介された時に、何を食べるとされていたでしょうか。
正解は「風」です。あまりにも食べないのに生きているので、風を食べる生き物と紹介されました。霞を食べる仙人のような、不思議な存在として受け入れられたようです。
ラーテル&ミツオシエから学ぶ「支えあう」こと
ラーテルは大きなイタチ科の動物です。ライオンにも立ち向かって食べ物を奪うので、よく「世界一恐れ知らずの動物」といわれます。私がラーテルの強みだと思ったのが、ミツオシエという鳥との共生関係です。ラーテルとミツオシエの好物はハチミツですが、ミツオシエはハチミツを探すことはできても、蜂の巣を壊す力はありません。ラーテルは低いところを歩くので、蜂の巣を見つけるのは難しいけれど、丈夫な前足で蜂の巣を壊すのは簡単です。そこでミツオシエは蜂の巣を見つけると、鳴いてラーテルに知らせるようになったのです。いつの間にかミツオシエはラーテルを頼るようになり、ラーテルもまたミツオシエが蜂の巣を見つけて鳴いていることを知るようになったそうです。誰かを頼ることで、できなかったことができるというのは、私も参考にしたい生き方です。
次にハチつながりのクイズを出します。外国に住んでいるオリエントスズメバチの、すごい特徴は何でしょうか。
正解は「太陽光発電ができる」です。どのぐらいのエネルギーを得ているかは分かっていませんが、太陽が昇っている時に活動し、太陽の力を自分のエネルギーに変えていると考えられています。
ハキリアリに学ぶ「自分の特技」
次はハキリアリの話です。高度に分業化された社会を営むと言われるアリやハチの中で、特に細かく分業しているのがハキリアリです。「農業をするアリ」として知られ、葉っぱを切る係、運ぶ係、運ぶのを見張る係、キノコを栽培する係、戦う係など30種程度の職業を持って生活していると考えられています。同じハキリアリでも、戦えるような大きい体の者、葉っぱの上で見張りができる小さな体の者など、生まれた時から形が違っています。
このような「得意を極める」ことと、先ほどの「頼り支えあう」ことはつながっていると思います。必ずしも自分で全部できなくてもよく、自信の持てるものを一つ極めておくと、社会という単位で考えた時に十分な力が発揮できて、一人の時よりも大きなものができると思います。
もう一つクイズです。ハキリアリが葉っぱを運ぶ様子からつけられた、英語の別名は何でしょう。
正解は「パラソルアント」です。傘に見立てて、日陰みたいな影が点々とできるためです。葉っぱを切って食べるわけではなく、葉っぱを畑にしてキノコを育てて、そのキノコを食べています。
生き物たちの生き方から学べること
ご紹介した生き物たちからは「どんな生き方でもいい」ということが学べると思います。また「わかりやすい強さばかりが強さではなく、臨機応変に人それぞれの強さを見つけられればいい」ということも学べると思います。
なぜ、生物多様性は大切なのか
生き物はお互いが絶妙なバランスで関係しあって生きています。私とナマケモノはすごく遠い世界の話ですが、ナマケモノと隣り合う生き物をつなげていくと、必ず私につながります。このような生態系はよくジェンガに例えられます。数種類の生き物がいなくなっても地球は崩壊しませんが、その数が多くなっていくと、ある時点でドバッと崩れてしまうといわれています。このように生き物同士は絶妙なバランスを保ってつながっているので、まわりまわって影響が現れるということが、生物多様性を大切すべき理由の一つです。
また、人間はさまざまな生き物の恩恵を受けて生きていますが、その人間も損得とは関係なく、多様な生き物と地球を分かち合っている生き物ということも、生物多様性が大切な大きな理由だと思います。
正解のない生き物の世界
たくさんの個体が集まって暮らすということは、それぞれの違いがうまく生み出せる絶妙なバランスを保ちながら、いろんな社会や地球を回していくことです。その中では自分の視点だけにとらわれることなく、いろいろな生き物が違いを持っていることで、地球が成り立っていると考えることが大切です。例えばゴキブリは人間にとっては害虫と言われますが、別の視点から見ると花粉を運んだり、土壌を豊かにするという側面もあります。
減っている生き物に私たちができることとして一番大事なのは、興味を持つことです。また、地球全体を大切にするために公共交通機関に乗る、ごはんを残さずに食べる、環境に良い商品を選ぶといった日常の小さなことも大切です。大量絶滅に向かっていく原因は一人ひとりのちょっとした力ですが、それを取り戻せるのも一人ひとりのちょっとした力なのですから。
ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します


