市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題やSDGsを理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。31年目を迎える本年は持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から新しい“ゆたかな”暮らしを考えていきます。
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現在、国において2050年にむけたエネルギーの見通しや電力系統整備の議論が進められています。その中では自然エネルギーや蓄電池の大幅な普及拡大など、電力システムの大きな変化が前提となっています。この大きな変化を実現するためには、政策的な取り組みのほかに地域の合意形成も重要です。未来に向けエネルギー構造を転換するための課題について考えます。

講座ダイジェスト

日本における自然エネルギーの活用状況

2021年度に日本では、自然エネルギーで供給されている電力の割合が20%を超えました。主な供給源は水力発電ですが、近年は2012年の固定価格買い取り制度の施行以来、太陽光発電の導入が急拡大し、現在は電力の約8%を賄う規模に成長しました。

もう一つ期待されているのが風力エネルギーです。シェアはまだ1%程度ですが、今後も拡大していくと思われます。日本で古くから利用されてきた地熱発電は、コスト的な問題から規模は十分ではありませんが、多くの地熱資源が存在する日本で特徴的な電力源です。

現在は脱炭素社会に向けて、太陽光発電のさらなる導入拡大を目指しながら、風力発電、地熱発電、バイオマスエネルギーも十分に活用していくことで、より自然エネルギーの比率を拡大していかなければならない状況です。

再生可能エネルギーの需給見通し

経済産業省が電力需要の増加を見込んで策定した、2050年度の電源構成の見通しでは、40%以上の電力を再生可能エネルギーで賄う計画です。一方で研究機関や大学の研究者は2040年、2050年に向けて、再生可能エネルギーを100%に近づける計画の検討と分析に取り組んでいます。しかし、多くの課題を克服する必要があります。

世界でも再生可能エネルギーの導入拡大が進められており、2021年時点で30%近くが再生可能エネルギーによって供給されています。また、2025年には再生可能エネルギーによる供給が石炭を抜き、最大のシェアを獲得する見込みです。

再生可能エネルギーの普及に向けての課題

ヨーロッパでの計画は、大幅に再生可能エネルギーを拡大するシナリオを提示し、それに向けて必要な課題を一つ一つ検討していくというプロセスで進められています。また、国を超えた送電網の投資なども急速に進められています。

日本の場合は2050年に40%を実現し、その後は100%に近づけていくことを考えると、より早い段階で再生可能エネルギーのシェアを60~80%に近づける必要があります。このような目標を見越して課題の分析を行わなければ、対策が後手後手になると懸念されています。

日本の課題として、まず考えなければならないのが、将来、再生可能エネルギーが拡大していったときに、需要と供給のバランスをどう上手に取るかということです。エネルギーの利用状況によって変化する電力需要と、発電量の状況を一致させるような運用が理想とされています。

この需要と供給のバランスが崩れると、周波数という電力の状況を表すバロメーターの誤差が拡大し、大規模な停電などが起こります。2018年に北海道で地震が発生した際には、地震でトラブルが起きた発電所の供給力が下がりましたが、人々が地震に驚いて電気をつけるなど、需要が逆に拡大しました。その周波数の変動を吸収しきれず、発電所の能力を超えたので大規模な停電が発生しました。

また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが拡大した将来、気象条件によって生じる、大きな供給変動を吸収して、周波数をどう安定的に保つかが将来的な課題になっています。

一方で九州電力のエリアでは、2019年3月に需要の大部分が太陽光発電で供給されました。太陽光発電が良好な時期の余剰電力を中国エリアに送電する、揚水発電で蓄えるといった有効活用もされていますが、それでも電力が余ったため、一部の太陽光発電所で出力を抑制し、需給バランスを取ったことがありました。

しかし、そのような状況でも火力発電や原子力発電が稼働しているという問題もあります。このような電力による需要の奪い合いを、最小化するような制度を考える必要があります。また、気象状況によって生じる変動を、周波数や電力の質を安定させる予備力として活用するなど、エネルギーに価値を持たせて活用する制度を設けることも非常に重要になっています。

一番重要な課題のひとつが系統接続です。従来の送電系統は、ある地域で大規模に発電した電力を、日本各地に効率的に送るために整備されてきました。その既存系統に残っている非常に小さな送電枠に、再生可能エネルギーの接続を試みていたので、申し込み段階での系統混雑などが発生していました。このため使い方をどう変えれば、需要に最適化された送電線の使い方ができるかを考える必要があります。

ドイツやイギリスなどでは、火力発電や再生可能エネルギーからの電気の流れを観測し、それを調整することで効率的に送電系統を使う取り組みが進められています。また、流れを調整するために出力を抑制した際には、特定の事業者の損失が大きくならないよう保証する制度も実施されています。

日本でも系統の接続を効率化するため、実際に流れている電力を把握したうえで、どれだけ接続できるかをきちんと考える「コネクトアンドマネージ」という新たな取り組みが実施されるようになりました。送電系統の増強も計画されています。それによって再生可能エネルギーの利用が拡大すれば、火力発電の燃料費もCO2も、CO2の削減対策コストも削減できるといったメリットが試算されています。

一人一人がつくる、再生可能エネルギー普及の文化

今後は電源開発も進めていく必要があります。それには適切な立地計画の策定や、市民、地元との合意形成プロセスが重要です。

また、再生可能エネルギーそのものの環境への影響を管理する必要があります。歴史的に自然資源や環境、温泉などの共有資源は、地域に不可欠なものとして管理されてきました。そこに自然エネルギーと呼ばれる新たな利用方法が入ってくると、枯渇リスクに直面する恐れがあるのです。

このような自然エネルギーの利用のあり方と管理について、どのような新しい文化や価値観を築いていくかを考えながら、再生可能エネルギーの導入拡大を進めていくことが大切です。また、個人はもとより、所属組織や消費先などで再生可能エネルギーの選択を増やしていくことも非常に重要だと思います。

今日ご紹介した課題はどれも難しい問題ですが、重要なのは「新しい技術が開発されれば、すべて解決される」といったように楽観的になりすぎず、具体的な対策を今から考えていくことではないでしょうか。また、戦略的に政策を決定していく必要もあると思います。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します。

質問1ヨーロッパの国をまたぐ送電線では、国家間の安全保障やセキュリティの問題はないのでしょうか?

回答電力は相互依存や互恵関係にあります。そのため一方に経済的な損失を与えるために電力の供給を取りやめるのは、国際的にも貿易関係的にも信頼を失うことにつながるので、実際に実現されることはないと思います。

特に欧州では、EUの市場統合の動きの中で、電力についても長い年月をかけて市場統合が進められてきました。そのため英国のEU離脱の際には今後の英国との国際送電に対する懸念も生じていました。英国とはEU外との送電として、新たな手続きや規定も必要となりました。国家間の送電では、それぞれの国の政府間、系統運用者間での調整が必要となります。

質問2なぜいまだに化石燃料のエネルギーを作り続けようとしているのでしょうか?

回答CO2の発生、大気汚染、外部にかかるコストを考えたら、本当は減らした方がいいというのはみんなわかっているのですが、化石燃料の生産は事業者に経済的なメリットがあるというのが一番大きい理由だと思います。

質問3教育機関が再生可能エネルギーを採用することで、そこに通う児童・生徒の意識はどのように変わっていくものでしょうか?また、市民の意識を変えていくために必要な取り組みを教えてください。

回答学生たちは小さい時から再生可能エネルギーが一つの有望な電源として身近にありながら「それでもなかなか増えないな」という疑問を持って成長してきたと思うので、スタート地点が自分とはだいぶ違うと感じています。

市民には「事業などを行う時に、より安い電源を選ぶのは仕方ないよね」といった文化のようなものも残っていると思います。そのため私たちは事業や個人に関わらず、自然に再生可能エネルギーを増やすような選択をする教育ができないかと考えているところです。そのためにも、まずはわれわれがそういった選択を見える形にして、先に見せる必要があると思っています。