「市民のための環境公開講座」は、市民の皆様と共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。30年目を迎える本年は「認識から行動へー地球の未来を考える9つの視点」を全体テーマとし、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えます。
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04 誰でも気軽に楽しく食品ロス削減に参加できるクラダシ
9/7 18:00 - 19:30

誰でも気軽に楽しく食品ロス削減に参加できるクラダシ

関藤 竜也 氏
関藤 竜也 氏 株式会社クラダシ 代表取締役社長

国内消費食料の6割を輸入しているにもかかわらず、そのほとんどを捨てている世界有数の食品ロス大国である日本。「3分の1ルール」などの商慣習のために、その多くを無駄にしています。私たちクラダシは、【SDGs、誰一人取り残さない】の目標達成のために、誰もが気軽に参加できるサービスを通じて日本の食品ロスを削減しています。クラダシを通じて、子どもの未来の環境につながるアクションの環を一緒にひろげませんか?

講座ダイジェスト

深刻な問題こそ楽しく解決

私はフードロス問題を解決するために、2014年に株式会社クラダシ(以下、クラダシ)を設立しました。商社マンとして働いていた私がこのような取り組みに関心を抱いたのには、2つの原体験が影響しています。それは阪神淡路大震災で被災し、救援物資を届けに行った現地で感じた無力感と、勤務先の中国で目にした経済を優先するために大量の資源を無駄遣いする仕組みに対する危機感です。このことからいつか自分で会社を設立し、持続可能な社会を実現するために楽しく気軽に取り組める仕組みを広めたいと考えました。

クラダシは「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」というミッションと「日本で最もフードロスを削減する会社」というビジョンを掲げ、社会課題の解決を目的とした事業に取り組んでいます。大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行の経済ではなく、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図る循環経済を目指しています。背景には世界人口の増加による資源の枯渇や地球温暖化の加速、海洋ゴミやプラスチックのごみ問題など様々な社会課題があります。中でも世界で生産される食糧の約1/3が廃棄され、世界全体で排出される温室効果ガスの8.2%がフードロスによるものだと言われています。

日本も例外ではありません。日本では年間約522万トンのフードロスが発生しており、これは世界の食品援助量420万トンよりも多い数字です。日本は他国に比べて納品期限が短く流通システムの精度が高い一方、環境問題の視点から考えると寛容さに欠ける側面があると言えるでしょう。このまま気温が上昇すれば、世界中であらゆる問題が加速していきます。このことから2015年9月、私たちが何をすべきかを明文化したSDGsが国連により採択されました。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という考え方は、クラダシの「楽しく気軽に取り組める仕組みを広めたい」という想いと一致しています。

みんながトクするサービス「Kuradashi」

2015年2月にクラダシがサービスを開始した「Kuradashi」はフードロス削減を目指し、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう可能性のある商品をおトクに販売するソーシャルグッドマーケットです。社会的・環境的・経済的に優れた「みんなトクする」ビジネスモデルを構築し、お得な買い物が企業のフードロス問題を手助けし、社会貢献団体に寄付できる仕組みを目指しました。重要なのは無理をして環境問題に取り組むのではなく、関わる人全てが幸せになる三方よしの商売で社会に貢献することです。みんなトクして社会に貢献できる、そんな夢のようなサービスを作りたいという想いからこのようなサービスが生まれました。

「Kuradashi」で商品を購入しようとすると、その商品がどれだけおトクに購入できるかが表示されます。同時にお支払いいただく金額の1%を支援金額として支援したい団体に支払うことができ、お客さまご自身で関心の高い団体を選んで支援することができます。またクラダシでは透明性を非常に重視しており、会員登録していただくと会員さまの社会貢献度合いを数字でご確認いただけます。結果的にこれまでで8,019万円の支援金額を「Kuradashi」で集め、複数の社会貢献団体にご支援することができました。他にも、フードロス削減量は9,889トン、CO2削減量は26,216t-CO2、経済効果は48.11億円という効果に繋がっています。

お客さまからは「子どもと一緒に寄付先を選んで購入できるのがうれしい」という声や「宝探しのようにお得な商品を探すのが楽しい」といった声をいただいています。また2022年6月時点で約990社のメーカーさまとお取引させていただいており、着実に輪を広げています。今後は1次流通でも2次流通でもない、1.5次流通というサプライチェーン上で生まれるあらゆる“もったいないを価値に買える”流通方法を拡大していきたいと考えています。「Kuradashi」はすでに様々な分野で賞をいただいており、このことからフードロスは国が抱える重要な課題であり大きな期待が寄せられていると自負しています。

自ら工夫し、活動の輪を広げる

クラダシは「クラダシ基金」という社会貢献活動を自ら行うための基金を設けています。世の中に山積する社会課題を改善するプラットフォーマーでありつづけるために、地方創生事業やフードバンク支援事業、教育事業、食のサステナビリティ研究会の社会貢献活動に充てています。地方創生事業のひとつである「クラダシチャレンジ」では人口減少・少子高齢化により人手不足に悩む地方の一次産業従業者へ、社会貢献型インターシップとして学生を派遣する取り組みを行なっています。学生を派遣することで未収穫となっていた生産物をお金に変え、同時に関係人口創出・拡大や地方経済の発展とGDPの成長に寄与しています。

フードバンク支援事業では、マッチングの際に重要な課題となる「公平性」「安全性」「安定性」をどのように確保するかという問題を、クラダシがハブとなり経済的なサポートを行うことで解決を目指します。SDGs教育事業では、未来の人材育成のためにいくつかの大学と連携し、特別講座を通して実践的なSDGs教育に励んでいます。また、食品業界以外の企業との連携にも力を入れており、商業施設やアパレル業界と実店舗販売の企画運営に取り組んでいます。東急プラザとは「2/15から始まるバレンタイン」を企画し、バレンタインデーが終わった後の商品を活用し、お世話になっている人に感謝を伝えようというメッセージを発信しSNS上でも話題となりました。

クラダシの事業は「社会に良いことを、堅苦しくてハードルの高いものではなく、楽しくて気軽なものに変えていきたい」という強い想いから生まれています。今年の7月にブランドリニューアルを行い、パーパスを「楽しいお買い物で、みんなトクするソーシャルグッドマーケットを創る」と改めました。「たのしく、やさしく、おやすく」という哲学のもと、いろんな掘り出し物が見つかる「たのしい」マーケットで、通常より「おやすい」お買い物ができ、そして社会・地球みんなに「やさしい」場所を目指しています。“フー”と“ドロス”というキャラクターも生まれたので、お子さまにもより親しみやすいサービスになっていければと思います。クラダシを見かけた際はどうぞよろしくお願いいたします。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1様々な事業がありますがアイデアはどのように生み出しているのでしょうか?

回答アイデアが生まれる理由はふたつあると思います。ひとつは常にそのことを考えているから、ふとした時にアイデアが生まれます。頑張って絞り出すというより、誰かのためにもっとこうしたいという気持ちがアイデアに繋がるのかもしれません。もうひとつは社員がアイデアを出す新規事業コンテストの存在です。1ヶ月という締切りがある中で62のアイデアが集まりました。社会を良くしていくためのアイデアがこれだけ集まるのはクラダシのイズムと言ってもいいかもしれません。

質問2事業をスタートした当初のまわりの反応やターニングポイントについて教えてください。

回答2014年に設立し、2015年2月にサービスをリリースした時は見て触って使えるサービスがあったことで多くの反響をいただきました。日本食糧新聞では「こういう企業があらわれないと日本の食糧システムは保たない」というコメントをいただき、自信が確信に変わったタイミングでした。あとは2015年9月にSDGsが採択されたことで明文化され、周りを説得する材料が増えました。また、2018年の春先、SDGsウォッシュという言葉が生まれると同時にSDGsの浸透を感じ、食品ロス削減推進法が施行された2019年10月、最後にコロナの蔓延時にクラダシが飲食店に納品できない商品の駆け込み寺のような役割を担えたことで数多くの中小企業を救えたことです。

質問3クラダシはどこで利益を上げているのでしょうか?

回答私たちはお金を回すという面でも持続可能を目指しています。実は2期目から黒字化を続けており、マネタイズポイントは物販の利鞘です。工夫を重ね安く仕入れています。もうひとつは「Kuradashi」を利用する方の会員費で、今後も事業の展開とともにマネタイズポイントを生み出そうと励んでいます。

質問4地方自治体について感じていることを教えてください。

回答地方自治体はフードロス以外にも少子高齢化など様々な問題を抱えている中でどういったことに税金を使うのかがとても重要ですが、クラダシは政治云々ではなく民間企業としてあらゆる“デコ”と“ボコ”を解決したいと考えています。食糧を余って捨ててしまう企業がある一方で、十分な食事が取れない人がいるという状況をいかに見つけ出し、双方に利益がある状態でマッチングし、このマッチングによって利益を生み出すことが重要です。そのため自治体の組長さんとお話しする時は、力を入れたい課題や目標を聞き出し、双方が持っている力をエンパワーメントできるように取り組んでいます。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)