市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。※各回の講座については、曜日、開催時間が異なりますのでご確認の上お申込みください
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パート3 わたしたちにできる選択

食品ロスをなくす方法
日本と世界の食ロス削減最前線

日 時 12/8 13:30〜14:45
井出 留美
井出 留美

食品ロス問題ジャーナリスト

永田 由利子
永田 由利子

NPO法人 循環生活研究所 理事長

膨大なコストとエネルギーを費やして処分している食品ロス。日本は年間のごみ処理費が2兆円を超える、世界一のごみ焼却大国です。食品ロスを減らして環境や経済へのダメージを最小限に抑えるために、家庭から企業、行政まで様々な取り組みが広がっています。食品ロス問題ジャーナリストの井出留美氏と、ダンボールコンポストの普及に取り組む永田由利子氏の対談を通して、毎日の暮らしの中で私たちに何ができるのかを学び、考えます。

講座ダイジェスト

進行 |吹留純子(公益社団法人日本環境教育フォーラム)


進行本日はありがとうございます。まずお二人の活動の内容をご紹介いただけますか。井出さんからお願いいたします。

食品ロスの現状と対策

井出「食品ロス」とはまだ食べることができるにも拘らず、廃棄されてしまう食品のことを指します。食品ロスは生産・加工・流通等の過程で発生する「フードロス」と、小売・外食・家庭から発生する「フードウェイスト」のふたつに分けることができ、全世界の食品ロスの総量は年間約13億トンに及びます。WWFの2021年7月のレポートでは25億トンという数字も発表されています。日本の食品ロスは年間約570万トンで、この数字は国連WFP(世界食糧計画)によると2020年の食料援助量の約1.4倍です。また食品ロスの内訳を見ると家庭と事業者、どちらも同じくらい食品を廃棄しています。事業者が廃棄している食品の中には売れ残りや食べ残しなども含まれており、私たち消費者の行動が食品ロスに大きな影響を与えていることがわかります。

メーカーから発生した食品ごみ(=「産業廃棄物」)とは違い、コンビニ・スーパー・飲食店等の小売店から発生した食品ごみは「事業系一般廃棄物」として家庭ごみと一緒に(して)税金で焼却処分される自治体がほとんどです。日本の一般廃棄物の処理に使用される税金は年間約2兆円で、ごみ焼却率(約80%)は、OECD加盟国の中でもダントツです。食品リサイクルセンター社長によれば、焼却しているごみのうち約40〜50%は食品とも推察しており、日本は多くのエネルギーとコストをかけて食品を焼却していることがわかります。また世界資源研究所のデータによれば、食品ロスによって排出される温室効果ガスは自動車から発生する温室効果ガスに匹敵し、食品ロス削減は、地球温暖化を逆転させるための重要な手段として注目を集めています。そのため、みなさんには3Rの中で最も優先度が高い「Reduce(廃棄物の発生抑制)」を推進する方法を学び、食品ロスの削減に積極的に関わっていただきたいと考えています。

まず、「賞味期限」ではなく「消費期限」を意識することが大切です。多くの加工食品は賞味期限が過ぎてもきちんと保管されていれば問題なく食べることができます。アメリカのリッツ・カールトンホテルではIOT、スマート機器を活用して廃棄量と廃棄の理由を「見える化」することで54%も食品ロスを削減した例があり、計量することの重要性がわかります。日本でも京都市がごみの量を市民に伝え、わかりやすく啓発したことやその他の取り組みで、20年間で半分まで削減することに成功しています。また福岡県大木町や宮崎県新富町では生ごみを堆肥として活用するリサイクルループが生まれています。他にも食品廃棄物をグリーンエネルギーや家畜の飼料として活用する動きがあり、書籍やSNS、記事を通じて詳しい情報を発信しているので、気になる方はぜひ読んでいただけると嬉しいです。

進行井出さん、ありがとうございました。続いて永田さんよろしくお願いします。

コンポストを使った楽しい循環生活

永田NPO法人循環生活研究所では「必要なものが地域で循環するたのしくて安全な暮らし」を目指して、コンポストを使った循環生活の普及・啓発に取り組んでいます。コンポストとは家庭から出る生ごみや落ち葉などを微生物の力を借りて分解し、堆肥にする容器のことです。自然界では枯れた植物が土に落ち、生き物や微生物が分解することで新たな土となります。その土が水や栄養を蓄えまた別の植物を育てるのと同じように、コンポストを使えば私たちも家庭から出た生ごみを堆肥にすることができます。またコンポストには生ごみに残った栄養を土に還し循環を生むだけでなく、焼却される生ごみを減らすことで環境負荷を抑えるという利点があります。

私たちはこの仕組みを生かした循環生活を広めるために「ローカルフードサイクリング」というコンポストを中心とした資源循環する町づくりに力を入れています。目指しているのは物事を自分ゴトで捉えることができる「半径2kmの小さな循環」で、小さな循環がやがて社会の大きな循環につながっていくと考えています。「ローカルフードサイクリング」では家庭でできた堆肥を地域のコミュニティガーデンへ持っていき、そこで育てた野菜を地域のマーケットで販売することで食の循環をつくります。この仕組みによって堆肥の使い道がないという方でもコンポストを利用することができ、小さな循環を生むことができます。

私たちは「ローカルフードサイクリング」による食における循環のサイクルを実現するために、福岡市内の3か所でモデルづくりをしています。そのひとつである照葉のコミュニティガーデンには堆肥の回収場所や菜園・農地があり、地域の方々の農業教育や交流の場所としてご利用いただいています。行われている講座の中でも、休日に畑に出向き野菜を育てる「半農都会人講座」や「半農小学生講座」はとても人気があります。その他にも大学生達と博多湾にあがるアオサを使った土づくりや野菜の栽培、加工、販売をおこなっており6次産業の学び場としても活用されています。また住民による自主活動も展開されており、循環の輪が少しずつ広がっていると感じます。このような場所を増やしながら、今後も食べることで発生する生ごみを使った楽しい循環生活を広めていきたいと思います。

活動の始まりとコロナ禍を経て

進行ここからは対談形式で、お二人に質問をしていきたいと思います。まずお二人がそれぞれの活動に取り組むようになったきっかけを教えてください。

井出5歳頃から食べ物に興味を持ち、大学は食物学科に進学しました。卒業後は日用品メーカーに勤めた後、青年海外協力隊の食品加工の仕事を経て、食品メーカーに就職しました。しかし東日本大震災の時、食料支援に向かった先で、理不尽な理由で大量の食べ物が廃棄される光景に衝撃を受け、14年間務めた食品メーカーを離れ、独立しました。初めの3年間はフードバンクの広報として働き、現在は、食品ロスを減らすための講演活動や、本・記事の執筆に取り組んでいます。

永田山口県の田舎で生まれ育ったので、田んぼや畑のある原風景に対する愛着があります。結婚・出産を機に福岡に引っ越し子育てをした時、土との距離を感じることが多く、豊かな土地を将来に残すにはどうしたらいいのだろうと考えるようになりました。また長女がアトピー体質だったため食べ物の素性に対する意識が高まり、子供への環境教育にも興味を持ちました。そこで平成12年に「子どもくるくる村」という子供向け環境教育イベントを立ち上げ、遊びながら環境やリサイクルを学べる学習の機会を提供するようになりました。その後、循環生活研究所の立ち上げに携わり、コンポストに出会いました。一主婦として手軽に使えて「こんな便利なものがあったのか」という衝撃から今の活動に取り組んでいます。

進行井出さんに質問です。京都や海外の好事例が、他の自治体に広まらない原因やハードルは何かあるのでしょうか。

井出日本では「ごみは燃やせばいい」という考えが強いと思います。すぐに新しいごみ焼却場を建設する話になってしまいます。レジ袋の問題が出た際も「燃やせばいい」という意見が出ました。京都市がなぜごみ問題に積極的に取り組んだのか担当者に聞いたことがあります。埋め立ての場所がないという理由もあったようですが、COP3での京都議定書の採択地であったことや、国際的な観光都市として町をきれいにしたいという意識もあったようです。ただ、残念ながら一般的にはまだ意識が低い自治体が多いです。ぜひ、他の自治体にも、京都市の取り組みをロールモデルとしていただきたいですね。

進行ごみ処理が各自治体に任されていることも好事例が広がらない理由でしょうか。

井出そうですね。韓国などは良くも悪くもトップダウンの体制で施策が実施されるので動きが早いですね。フードバンクも日本と同じ頃に議論が始まりましたが、すぐに400くらいのフードバンクが立ち上がりました。日本はボトムアップで市民運動として発展してきましたが、現時点でフードバンクは150くらいです。広がりのスピードは遅いと思います。

進行続いては永田さんに質問です。コンポストを始めたいけど堆肥を使う場所がない場合、どうしたらいいのでしょうか。

永田この質問はこのコンポスト普及講座を始めたころたくさん寄せられたのですが、徐々に減ってきました。なぜかと言うと、コンポストを使い始めてみると堆肥が可愛く思えてくるようなんです。皆さん堆肥の使い場所を自分で探したくなるみたいですね。中でも今はベランダ菜園が人気ですが、庭木に使う方もいます。自治体によっては堆肥を活用するための回収ボックスを設置しているところがあるかもしれないので、ぜひ環境局などに問い合わせてみてください。

進行アオサの堆肥化にも取り組んでいるとのことですが、生ごみに含まれる塩分を気にされている方がいらっしゃるのですが、この辺りいかがでしょうか?

永田当初は私たちも気になって水洗いなどしていたのですが、自然の雨で流されるなどあるらしく、アオサで実験したところ、塩分を洗わなくても問題はありませんでした。ネギなど葉物野菜などとても美味しく育つのでぜひ試してみてください。

(※講師からの追加情報) 一般にごみの中の塩分については、私たちが通常食事としてとる塩分が堆肥に入る量ですと気にする必要はありません。ただし、塩分が大量に入る場合は(例えば残った漬物を大量に投入する場合など)、水で洗い入れることをお勧めします。

進行食品ロスの状況やコンポストの環境など、コロナによって変化したことはありますか?

井出家庭の食品ロスに関しては、自己申告ベースですがイギリス、イタリア、アイルランドなど、日本も含め、多くの国で減る傾向にありました。買い物が制限され、家で過ごす時間が長くなったことで、今、家にある食品を使い切るようになったことが関係していると思います。また、オーストラリアなどでは、これまで捨てていた残り物をリメイクして食べる人が増えたというデータもあります。一方で、通販やテイクアウトによるダンボールやプラスチック容器のごみは増加しています。

永田家庭ごみ(生ごみ)は逆に増えたという声もあります。「コロナ禍によって改めて家の生ごみの量を実感するようになった」という声もありました。ごみに対する関心や暮らし方に随分変化が起きていると思います。このコロナ禍で、例えば親子でベランダ菜園をするなど何かを育てることに興味を持つ方が増えた気がします。コンポストを新たに始められた方もコンポストで堆肥を育てるという感覚で取り組まれる方もいるようです。

進行ダンボールコンポストの熟成期間はどのくらい必要でしょうか?

永田生ごみを入れるのを止めてから3週間くらいです。ほったらかしにするのではなく週に一度水を入れて混ぜてください。水は湿り気を感じる程度で十分です。

進行食品ロスに関連して「3分の1ルール」という習慣があると言われています。どんなルールなのでしょうか?

井出製造から賞味期限が切れるまでの期間を3つに分けて考える業界ルールです。例えば6か月の商品の場合、初めの2か月のうちにメーカーは納品しなければならず、遅れると納品ができなくなります。販売者は次の2か月で販売しないといけない。この間に売れないと返品か廃棄をしなければいけなくなります。無駄な食品廃棄を少なくするよう、10年前から食品業界や農林水産省で改善の検討も進んでいますが、逆に、より厳しいルールも存在するなど、まだまだ改善されているとは言えません。
一方で、欠品ペナルティという商慣習の背景には、欠品を許さない消費者の問題もあります。我々も意識を変えていく必要があると思います。

進行消費者も売る側に寄り添っていかないとこの問題を解決することは難しいということですね。

ありがとうございました。最後になりますが、今後どのような活動の方向をめざしていかれますか?

井出わたしも2017年から生ごみを乾かしてコンポストにする活動をしています。重量も大きく減らすことができ、280kg以上を減らすことができました。ヨーロッパでは生ごみのほかに落ち葉、枝などもオーガニックという括りでバイオガス、堆肥用に回収する取り組みがすすんでいます。今まで捨てていたものが、実は資源になるのだと、人々のマインドを変化させたいと思っています。

永田生ごみを出すことが自分事になると行動が変わってくると思います。「誰かがやればいい」、ではなく自分に何ができるかを考えることが大切です。私たちは自分にできることとしてコンポストに取り組んでいます。このような活動が広がり「半径2Km」のリサイクルがどんどん増えるといいと思います。生ごみの焼却をゼロにしたいですね。

進行生ごみ焼却が減れば、そのためにかけている費用が減り、それを他の必要な施策に振り分けられますね。このような良い循環が広がると素晴らしいと思います。

井出さん、永田さん、本日はありがとうございました。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)