市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。※各回の講座については、曜日、開催時間が異なりますのでご確認の上お申込みください
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パート1 気候変動とエネルギーの転換

「脱炭素社会」の構築に大いに資する「ISOPシステム」について

日 時 9/15 18:00〜19:15
光山 昌浩
光山 昌浩

サステイナブルエネルギー開発株式会社 代表取締役社長

当社は、単純に燃やされているだけのゴミから、石炭とほぼ同じ性質を持つ「炭化燃料」を生成して利活用することで、脱炭素社会の構築に貢献するという企業ミッションを掲げています。これを可能にするソリューションはISOPシステムと呼ばれるもので、雑多なゴミからでも常に一定性状の炭化燃料の製造が可能です。この際、分別は不要で、かつ、塩素なども製造過程で分離する仕組みを持ちます。講演ではこうして得られた炭化燃料がいかに脱炭素推進に寄与するかを説明します。

講座ダイジェスト

亜臨界水処理を活用したISOPシステム

私たちは「未活用資源からバイオ石炭を生成し、活用する」というコンセプトのもと、様々な社会課題に取り組んでいます。その根幹をなすISOPシステムとは、未活用の有機物を分別せずにエネルギー化する仕組みです。結合された(Integrated)亜臨界水(Subcritical Water)を活用して、有機物(Organic Materials)を原料にしたエネルギー生成(Power Generation)するという4つの頭文字から生まれた言葉で、破砕装置や亜臨界水処理装置、トロンメル(ふるい装置)や低温炭化装置、ペレット製造装置のコンポーネントによってバイオ石炭を生成します。

ISOPシステムに投入できる原材料は、生ゴミやプラスチック、発泡スチロールなどの有機物で、炭素を含むものであれば含水率の高い有機汚泥やヘドロも投入が可能です。ISOPシステムの中核を担う亜臨界水処理は、環境省が認めた感染性廃棄物の処理方法であることから、感染性医療廃棄物も投入できることが特徴です。また、有機物から発生する様々な匂いは、ISOPシステムによってバイオ石炭が生成される過程で完全無臭になるため、多くの自治体が処理に困っているイノシシなどの駆除した害獣も、バイオ石炭の原材料として投入することができます。

なぜこのようなことが可能かというと、亜臨界水(水の液体でも気体でもない状態=飽和水蒸気圧以上の圧力下の水)が持つ強力な加水分解作用によって、高分子の有機物を低分子化し、危険度の高い放射線物質などの有機塩素化合物、有機リン化合物も分離分解することができるからです。水分子によって小さい分子に分解された有機物は無害になるため、私たちは多種多様な有機物からほぼ石炭と変わらない性質を持つ、バイオ石炭を生成することができます。

複数の社会課題を解決する未来

ISOPシステムによって生成されたバイオ石炭は、石炭とほぼ変わらない性質を持ちます。バイオ石炭の低位発熱量は26MJ/kgで、薪やペレットなどの木質バイオマスに比べて熱量が高いことが特徴です。高い撥水性を有しているため、水に浸しても型崩れすることはありません。さらに、発電所で活用する際に大きな障害となる塩素やナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属は生成過程で分離されるため、バイオ石炭にはほとんど含まれていません。また、バイオ石炭のエネルギー回収率は350%以上と非常に高いため、高いエネルギーを持つ効率良い燃料と言えるでしょう。

こうしたバイオ石炭を普及させるために、私たちはISOPシステムを異なる2つのセグメントに分け、製品開発を進めています。一方は自治体や廃棄物処理事業者、大規模工場での活用を想定した高圧ボイラタイプで、まとまったスペースと資格を持ったオペレーターを必要としつつ大量のゴミを処理できるプロ仕様です。もう一方はコンビニや都心ビル、小規模工場での活用を想定したボイラレスタイプ(試作中)で、小さなスペースでアルバイトの方でもお使いいただけることを目指した誰でも利用可能な仕様です。ISOPシステムの技術を社会へ普及させることは、温室効果ガスによる地球規模の気候変動や大規模災害で影響を受けるライフラインの確保、新型コロナウイルスなどの感染性廃棄物の急増や人口減少のもとでのインフラ維持、行き場を失った廃棄プラスチックの処理など、様々な社会課題の解決に繋がります。

例えば、食品工場や病院、オフィスや指定避難所にISOPシステムを導入しお客様から生成したバイオ石炭を有価で買い取ることでバイオ石炭を石炭火力発電所に販売。既存の石炭火力発電所をバイオマス発電所に転換しRE100電力を供給したり、ISOPシステムを車両搭載型にし、被災地で発生したゴミから電気や熱、飲料水の供給をするなどの活用が考えられます。さらには放射線物質のセシウムを含む除染対象地域の木材を燃料に、バイオ石炭を生成することで「復興まちづくり」と「脱炭素社会の実現」の両立を目指す開発やトヨタの新型MIRAIに使用する水素をバイオ石炭によって生成する仙台市×東北大学スーパーシティ構想、都心のビルディングにボイラー型ISOPシステムを導入し「地産地消エネルギー」生成・活用実証、流通大手企業による未活用資源から配送トラック燃料向け水素の生成実証、政令都市での脱炭素型スマートコミュニティ構築実証など、開発テーマは無限大です。

脱炭素化社会の構築への想い

私は2011年に起こった東日本大震災をきっかけにこの会社を起業しました。当時は株式会社山形県上下水道施設管理という会社で、7つの下水処理場の運営管理を請け負っていました。避難所でお風呂サービスなどの支援を行う過程で、被災地には多くの支援物資が集まる反面、ゴミが大量発生したり、仮設トイレの汚物が溜まっていく光景を目の当たりにしました。それに加え、電力が復旧したのは震災から1ヶ月以上経った頃。現地のゴミからエネルギーを生成することができれば、両方の問題が解決するのではないかと考えたことが始まりです。

私は文系の大学出身なので、技術系のバックグラウンドはほとんど持ち合わせていません。それでも環境ベンチャーを立ち上げられたのは、想いと情熱、そして仲間がいたからだと思います。コンセプトを作りこういったことはできないだろうかと相談する中で、技術系や理系のバックグラウンドを持つ仲間と巡り会えたことはとても幸運でした。逆に言えば、想いが強ければそういったバックグラウンドを持っていなくても、起業できるということです。時間はかかると思いますが、確実に縁は広がっていくものだと思います。皆さんもそういった意識を持って、脱炭素化社会の構築を考えていただければと思います。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1ISOPシステムは複数の課題を同時に解決していける、夢のような技術だと感じました。普及させていくために、弱点だと思うことがあれば教えてください。

回答最大の弱点は、実績が少ないことだと思います。ゴミ処理を担っているのは自治体なので、簡単に業務を止めることはできません。したがって自治体は新しい技術を導入するハードルが高く、過去に実績があるものを採用する傾向があるため、ISOPシステムを普及させるには実績を積んでいくことが重要だと考えています。

質問2ISOPシステムを導入するにあたり、必要な資格やクリアしておくべき法律はありますか?

回答オペレーターには2級ボイラー技師の資格が必要です。また、ISOPシステムは第一種圧力容器となるため、労働安全衛生法の規制を受けることになります。また、廃棄物処理事業者の方が行う場合には廃掃法の規制を受けます。ただ、事業者の方が自らのものを自らで処理する場合には、産業廃棄物において許可は要しないとされています。

質問3高圧ボイラタイプのメンテナンスは大変なのでしょうか?耐用年数についても教えてください。

回答焼却炉の場合は中の耐火レンガの張替えに大きなコストがかかるのに対し、亜臨界水処理装置は金属の圧力容器があるだけなので、メンテナンスコストは少ない方だと思います。ただ、年に1回労働安全衛生法に基づく圧力の法定検査があり、不具合があれば補修が必要になります。

法定対応年数は17年ですが、圧力容器のメンテナンスをきっちり行っていただければ、それ以上の年数もお使いいただけると想定しています。

質問4事故が起こる可能性はありますか?また、その際にバイオ石炭が飛び散った場合、それらは自然に還るのでしょうか?

回答爆発することが最大のリスクと考え、いくつかの対応措置を講じています。セイフティー機能を持つことで、全体が爆発しばらばらになるといったリスクはほぼゼロにできると考えています。 また、バイオ石炭は基本的に土に還るとものだと考えています。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)