市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
全9回 オンライン講座 無料

パート1 生きものと気候変動

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9/16 18:30 〜 19:45

もっと山や森の中へ
いきものの痕跡を求めて

今泉 忠明 氏

今泉 忠明

動物学者 /
「けもの塾」塾長

講座概要

「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)の監修で知られる今泉忠明氏は動物学者。これまで数々のフィールドワークを通じ、自分だけの何かを見つけるためには、緑豊かな山や森に出かけ、自然の恵みを体全体で受けとめ、五感を研ぎ澄ましながら動物の息吹を感じることが役に立ったと考えています。自然の中で出会った動物やこれまでの研究の話をまじえながら、山や森などの自然の中で過ごすことの大切さをお話しします。

講座ダイジェスト

温暖化とホッキョクグマ

私は、子供の頃から海や山の調査の手伝いをしていました。海の中も大変美しいですが、エアボンベを背負って呼吸をするため、時間を気にしなければなりません。その点、陸の上は楽です。私は森に魅了されてから、50年以上動物の調査を続けています。

どのように調査を行なっているかというと、センサーカメラといって動物の温度を感じるとシャッターが切れて録画が始まる装置を森の中に設置して、メモリーカードに動物たちの自然な姿を記録しています。センサーカメラに映った動物たちの姿を調べることで、その動物がどこへ移動して、何頭いるのか、子供が生まれる時期はいつなのかなどさまざまなことを調査しています。

ホッキョクグマは温暖化が進むと絶滅すると言われていますが、問題なのは温度の上昇ではなく、それによって氷が溶けてしまうことなんです。ホッキョクグマは、浮氷の上で休んでいるアザラシやアシカを襲って食糧としているため、浮氷がなくなると狩りができなくなり、絶滅すると考えられています。人工衛星を使って北極地方の監視を行なっているアメリカ海洋大気庁「NOAA(ノア)」の予測によると、2050年には北極圏の氷がほとんど失われると言われています。北極の気候に適応してきたホッキョクグマは、浮氷とアザラシがいなければ生きることができません。

温暖化は人間のせいではないと主張する人もいますが、私はこのような急激な温度の変化は、人間によるものだと考えています。今年の夏は、エアコンを付けなければ熱中症になってしまうほど、暑かったですよね。ホッキョクグマが絶滅してしまうということは、人間にとっても危険な暑さだということです。私たちが安全に生きていくためにも、温暖化の問題を食い止める方法を考えなくてはいけません。

人間の都合で変化を強いられるいきもの

私はドライブレコーダーを使って林道を調査している時に、道脇の草を食べるニホンカモシカを目撃したことがあります。不思議がって寄ってくるニホンカモシカが車から離れるのを待って、下りていった坂を見てみると結構な急斜面だったりします。昔は、猟師に撃たれてしまい、一時は幻の動物と言われるくらい数が減少していましたが、特別天然記念物に指定され保護されるようになってからはまた全国で見られるようになりました。しかし、今度は増えたニホンカモシカが植林の苗木を食べたり、森を荒らしたりすることが問題になっています。私は人間の都合で撃ったり保護したりするのではなく、きちんと保護区を作って動物たちを守っていくべきだと考えています。

ここで、いただいた質問に答えていきましょう。

質問1雑種交配が進み純粋なホッキョクグマが居なくなった場合、それは絶滅と言えるのですか?また、それは異常気象がいきものの進化の方向性を決めるということになるのですか?

回答雑種化による絶滅というのはあります。もちろん、気候の変化に適応することでいきものが進化することはありますが、その要因が人間の場合急激な変化になってしまうと思います。自然は千年から1万年かけてゆっくり変わるのに対し、人間による産業化は400年ほどの間に環境に大きな変化をもたらしました。これはいきものが適応できないスピードです。人間が引き起こした温暖化という環境の変異に、動物の進化は間に合わないと思います。

質問2温暖化が進むことで増える動物はいますか?

回答主に、人間にとって害のあるいきものが増えると思います。蚊や昆虫、ウイルスなども温かいところを好むいきものです。今、問題になっている新型コロナウイルスもワクチンができると思いますが、その後にまたきっと別のウイルスが生まれます。私たちはこの問題とずっと向き合っていく必要があるでしょう。

同じ空気を吸って、未来を考える

私が監修している『ざんねんないきもの事典』にも載っているミユビナマケモノ。中央アメリカから南アメリカの熱帯林に生息しているのですが、雨の日が続くと餓死してしまいます。なぜかというと、ミユビナマケモノはセクロピアという青い葉っぱを1日3、4枚食べると木の上に登って日光浴をします。この日光浴によって、胃袋にあるバクテリアの動きが活発になり食べたものを消化するため、太陽が出ない日が続くとうんちが出なくなって死んでしまいます。実は、このうんちをするために木から降りる時がミユビナマケモノにとって一番危険で、森に住んでいる他の動物に見つかると襲われてしまいます。ナマケモノにとっては目立たないことがとっても大事です。

ここまで聞くとすごくおかしないきものに感じるかもしれませんが、ナマケモノは進化を遂げながら100万年以上生きてきた動物です。しかし、今は異常気象によってアマゾンに雨が降り続け、このミユビナマケモノも絶滅する可能性があると言われています。私たちが異常気象を止めない限り、長い歴史の中で築いてきたものがすべてひっくり返ってしまうような、とんでもない変化が起こるかもしれません。

森の中を1年中撮影した映像をみてみると、昼と夜では現れる動物が異なることがわかります。私たちが森に行った時も動物は人間の足音や声を鋭く聞き分けて、姿を隠しています。なので、森に行って無理に動物を観察しようとするのではなく、動物が住んでいる環境へお邪魔して色々なことを考えてみるのがいいと思います。同じ空気を吸っていると思うとワクワクしますし、ぜひそういう場所に足を運んで欲しいと思います。

それでは、最後にいただいた質問に答えて講座を終わりたいと思います。

質問3ナマケモノはなぜ危険を冒して、うんちをするのですか?木の上でするように進化しないのですか?

回答動物は、基本的な習性というのはどんなに生息場所を変えても変化しません。人もそうですよね。また、危ないからやめておこうと考えられるのは人間だけです。

質問4山に入る時に気をつけていることはありますか?

回答森に入る時、熊がいるところに行くのだから会って当然と考えます。びっくりして逃げたり声をあげたり、そういうことはしません。野生の熊は人間の気配を感じたら去っていきます。本当に怖いのは、人間に餌付けされた熊で、人間は何か美味しいものを持っていると知っているのでそういう熊と出会ってしまったら戦うしかありません。

質問5センサーカメラの設置場所はどうやって決めていますか?

回答ここは動物が多いと知っていて設置することもあれば、ランダムに場所を決めて16台を真四角に設置することもあります。調査の場合は、ここには動物がいないということを確認・記録するのも重要で、いないことを証明するのはとても難しいです。

質問6人間も動物ですが、「残念なところ」はどこですか?

回答何もないのによく転ぶところですね。これは動物の進化から外れています。きっと脳が発達しすぎてバランスが悪いのでしょう。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)