認識から行動へ。学生から社会人まで参加する学びの場。

市民のための環境公開講座2019

本年度の講座は全て終了いたしました。各講座のダイジェスト版を掲載しておりますのでぜひご覧ください。

PART3 伝える・つなげる仕事

11 25 レポート

SDGsのコミュニケーション

石田 一郎 氏

石田 一郎 (株)朝日広告社 取締役上席執行役員

世の中やひとりひとりを動かすコミュニケーションについて考え、参加される皆さんとのパートナーシップでSDGsのゴール達成に向けて進んでいきましょう。

講座概要

SDGsというプラットフォームを使って伝えると、課題解決のために協働する仲間が見えてきます。また、論点が多角的に理解できたりします。一方で、生活者にSDGsを自分ごととしてとらえていただくにはいろいろと工夫が必要だと実感しています。様々なコミュニケーションの方法、場についていくつかの事例をもとに皆さんと一緒に考えていきたいと思います。


講座ダイジェスト

「伝える」からアクションの誘発へ

私は、インターネットによって情報の伝え方が多様化した現代で、改めてメディアの存在意義を考えていた時、SDGsという持続可能な開発目標に出会いました。そして、社会課題をただ指摘するだけでなく、解決まで導いていくソリューション・ジャーナリズムという報道の在り方とSDGsが一致すると感じ、当時私が在籍していた朝日新聞社で全社横断のSDGsプロジェクトを立ち上げました。今年の6月からは朝日広告社に移り、消費者やステークホルダーの態度変容を促してアクションに繋げるという広告会社の能力を通じて、SDGsのゴールへ向けた各企業の実践を支援する活動に取り組んでいます。

これまでの日本では、企業、教育機関、メディア、NPO・NGO、公的機関・自治体それぞれがSDGsの理解に繋げるための情報発信をおこない、特に若年層を中心としたSDGsへの認知度を高めてきました。しかし、ドイツのベルテルスマン財団が今年発表した、SDGsの達成具合を示すランキングで、日本は15位。人によっては、この順位がさほど悪くないように聞こえるかもしれませんが、日本はここ数年ずっとこの辺りの順位で停滞しており、掲げられている17のゴールのうち特に芳しくないと指摘されているゴールがいくつかある状態です。

SDGsのゴールである2030年まであと10年あまりしかありません。私たちはSDGsがうわべだけのものであることを表すSDGsウオッシュ(SDGs +whitewashごまかし・粉飾)と言われないためにも、高めてきたSDGsの知見をより具体的なアクションに繋げ、本当の意味で浸透させるコミュニケーションをおこなう必要があります。

共感を呼ぶ、コミュニケーション

皆さんは、ウミガメの鼻からストローを抜く映像を見たことがありますか?海洋プラスチック問題は、ニュースを目にしない日はないほど注目されていますが、私はひとりひとりの問題を広げる力が、海洋プラスチック問題への関心に繋がったと感じています。もちろん、数年前から国連、企業や行政が様々なキャンペーンをおこない土壌を築いた面もありますが、ウミガメの映像のように人々の心に訴えかける動画が、見た人の心を動かし、多くの方々に共有したいという気持ちを与え今の様々なアクションにつながったのだと思います。

世の中には社会課題解決に全く関心がない人から、強い関心がある人まで、様々な人がいます。その中でアクションを誘発するには、ターゲットによって伝え方のコンテクストを変えることが重要です。『My Mizu』という無料で水を給水できるスポットが検索できるアプリのコミュニケーションでは、ペットボトルの使用を削減し、マイボトルを使おうよ、という訴求によって環境関心層の支持を集めていますが、一方で、出費を減らしてお得に賢く暮らそうよ、という伝え方によっても、ダウンロード数が伸びたそうで、社会課題への関心度合いの違う層ごとに伝え方を変える大切さがよくわかるとても良い例だと思います。社会課題より自分のことが大事だと考えている人に響くストーリーを見つけるのです。このアプリ自体が行動を誘発するコミュニケーションツールになっています。

朝日新聞の記事でも、パン屋を営むご夫婦がフランスへ修行に行き、現地では長時間労働などしていない状況に驚いて、帰国後に工夫することで労働時間が半分になり、売り上げは変わらず、気づいたら食品ロスのない「捨てない」パン屋になったという話が、多くの人に共感され拡散されたことがあります。SDGsに関する記事は他にもありますが、私はこの記事のストーリーが記事をシェアするという行動を促したのだと考えています。自分事化されるストーリーに加え、承認欲求を満たす情報の伝え方、そしてコンテクストに合わせたコミュニケーション。人々のアクションを誘発するには、目的に応じた態度変容設計が必要であり、そこにはマーケティングの手法が活用できます。

SDGs自体が志(パーパス)である

しかし、マーケティングの手法だけで、持続的に人々の行動を促せるわけではありません。アクションを一時的なものとしないためには、パーパスと呼ばれる企業やプロジェクトが『何のために存在しているか』を示す、社会的意義が必要です。日本では志とも表現できるパーパスの存在が、共鳴する人を増やし人々を巻き込む力になると考えられ、経営戦略上でもとても重要なキーワードとして扱われています。また、パーパスは定めるだけでなく、商品や活動を通した一貫したコミュニケーションが求められるのが特徴です。

例えば、日本の工芸を元気にするというパーパスを掲げる中川政七商店の13代目中川政七さんは、お客さんをライトユーザーからヘビーユーザーまで分類し、それぞれに適したコミュニケーションを図ることで共感の輪を広げています。

現在、朝日広告社では、サステナビリティ推進体制を整えつつ、志を持った人々や組織を繋ぐ取り組みとして、『Rashii。』という企業のパーパスに着目したサイトや、団塊Jr.を含む1700万人のマジョリティである40代、50代女性の悩みや課題に光をあて、自分らしく年齢を重ねることについて考える『Aging Gracefully』というプロジェクトを運営しています。私は、SDGs自体がパーパスであり、人々の共感を呼ぶ非常に便利なコミュニケーションツールだと捉えています。ここにきている皆さんは同志です。これからもSDGsという志を持って、より良い世界を実現するためのアクションを一緒に巻き起こしていければと思っています。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)/写真:廣瀬真也(spread)