認識から行動へ。学生から社会人まで参加する学びの場。

市民のための環境公開講座2019

本年度の講座は全て終了いたしました。各講座のダイジェスト版を掲載しておりますのでぜひご覧ください。

PART3 伝える・つなげる仕事

11 18 レポート

メディアが考えるSDGsの自分ごと化とメディアの役割

木幡 美子 氏

木幡 美子 (株)フジテレビジョンCSR推進室部長

「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に共感し、テレビを通じてSDGsについてより多くの人に知ってもらい、考えてもらいたいという思いで番組を企画しました。テレビ局のCSRは何をすべきかが、この番組制作を通じて見えてきたように思います。

その経験を通じて得たものについて、皆様の参考になるお話ができればと考えます。

関 龍彦 氏

関 龍彦 講談社FRaU編集長兼プロデューサー

2018年12月、女性誌としては世界で初めて一冊丸ごとSDGsを特集したFRaUが話題となりました。メディアに「知らせる」だけでなく「行動変容を促す」ことが求められている昨今、そのあるべき姿について、出版の立場からお話ししたいと思います。

講座概要

メディアが考えるSDGsの自分ごと化とメディアの役割


講座ダイジェスト

司会進行鴨川光/日本環境教育フォーラム

本業で挑む、CSR活動

木幡私は、22年間フジテレビにアナウンサーとして従事した後、CSR推進室へと異動しました。フジテレビではCSRの部署ができる以前から、アナウンサーが小学生に対しておこなう話し方の出前授業や被災地での支援活動など、エンターテイメントや発信力を使った取り組みをおこなってきましたが、やはり本業である『番組』を通したCSR活動をおこないたいと思っていました。その想いが初めて実現できたのが『環境クライシス』という1時間半のドキュメンタリー番組です。初回は気候変動を扱い、一緒に作りたいと言ってくださるスポンサーがいたために第2弾、第3弾と続けることができました。これにより、番組を通してCSR活動をおこなうという扉が少し開き、今回ご紹介させていただく『フューチャーランナーズ〜17の未来〜』というSDGsの課題解決に取り組む人を紹介する番組の制作に繋げることができました。

『フューチャーランナーズ』は、毎週水曜日の22:54〜23:00に放送される5分枠の番組です。私たちがこだわったのは、有名でなくても、SDGsを意識していなくても、その人の活動がSDGsの課題解決に繋がっていると思えば紹介するということ。SDGsは地球上に住む全員の問題なので、自分1人が何かやっても変わらないだろうと感じている人にこそ、もしかしたら変わるかもしれないと思っていただきたいと考えました。テレビ番組としては珍しく、全ての放送回をウェブで公開しており、英語字幕も付けています。これもまた、SDGsの問題は世界中のあらゆる人に考えて欲しいとの願いからです。

女性誌だからできる伝え方

私は、講談社に入社してから女性誌しか担当したことがないという少し珍しい経歴を持っています。今、編集長を務めているFRaUは、1冊1テーマを扱う女性誌で、2019年の1月号で1冊丸ごとSDGsの特集をさせていただきました。発刊するにあたりSDGsのことを調べてみると、世界に比べて日本の女性、特にFRaUの読者層である30代〜40代の認知率が低いことを知りました。しかし、私は女性の方が腑に落ちれば生活に取り込むことが得意なはずだと感じていたので、女性に対してSDGsの理解を広めることは、SDGsを日本に根付かせる一歩になるかもしれないと思いました。

表紙に綾瀬はるかさんを起用したのは、SDGsがマイナーではなくメジャーなことだと伝えるためです。雑誌のタイトルも、SDGsを主張するのではなく『世界を変える、はじめかた。』として、SDGsを地球からのポジティブな宿題と表現しました。中身は、SDGsを通して目指す2030年の未来から始まり、世界のこと、日本のこと、企業のこと、使うもののこと、今日からできることと、遠いところからだんだんと近いところに話題を持ってきて、SDGsをより身近な問題として認識してもらえるように工夫しています。自分のためだけでなく、社会のことを考えてものを選ぶことが少しでも広がっていくよう、女性誌ならではの素敵だな、綺麗だなと感じる表現を通してSDGsを日常的に取り入れる人を増やしていけたらと思います。

SDGsによって広がる繋がり

進行ここからは進行を含めた対談形式で、講座を進めさせていただきます。誌面の中では、自然な流れで日本企業の取り組みを紹介されていますが、おふたりは企業を巻き込むという点で工夫されたことはありますか?

今回の例で言えば、SDGs特集で初めて一緒に仕事をすることになった生協さんには、お金をいただいて宣伝するのではなく、一緒にSDGsを盛り上げるパートナーとして、生協さんの会員用に雑誌を買い取っていただくという形でご協力していただきました。SDGsは国も企業も人も関係なく、全員で取り組む課題目標なので、一緒に取り組みやすいのがひとつの特徴だと思います。

木幡『フューチャーランナーズ』は番組開始から1年以上、日本証券業協会さんにスポンサードしていただいていますが、SDGsが共通の課題目標であるために番組の中身に共感して、一緒に頑張ろうという気持ちで取り組めていると思います。また、巻き込むという意味では本来番組を作ることのないCSRの部署が番組を発案したことによって、社内における横の繋がりが強化されたと思います。SDGsを通して営業から制作、CSRからスポンサーそして視聴者の方と、他の番組とは違った輪の広がりを感じています。

進行SDGsを社内に浸透させるために取り組んでいることはありますか?

木幡この番組は、他と比べても毛色が異なるので、社内でも別の見え方をしていると思います。ただ、社内の人間もそれぞれに忙しいので、心が動かないと本当の意味では広がっていきません。私は自分から声を掛けたり、グッズをつくったりして直接顔を見てSDGsのことを話すよう心がけていますが、まずは各部署のCSRプロジェクトチームメンバーを仲間にして、そこから発信してもらえるようにと考えています。

SDGs特集の発売日には、社内でSDGsの説明会を開きました。SDGsをまだよく知らないという人に、SDGsが特別なものではなく楽しみながら取り組める課題であることを伝えるには、SDGsによって広がった企業との関係や、仕組みを工夫しながら収益を上げているという点を面と向かって話す機会が大切だと感じています。

進行おふたりは社会の変化をどのように感じていますか?

明らかに変化していると感じます。ファッションやビューティでもSDGsを前面に出すブランドが増えていて、来年はさらに増えていくんじゃないですか。令和2年から小学校の教科書にもSDGsが載ることが決まっているように、若い世代の方がSDGsにどんどん詳しくなって、業績が良くてもSDGsに取り組んでいなければ、その会社には行きたくないと感じる世代も生まれてくると思います。SDGsをやっていると偉いとか儲かるなどと言われていた時期もありますが、これからはSDGsに取り組んでいないことがただただリスクになっていくと思います。

木幡若い子は本当に意識が高いですよね。採用の時も、学生の方がCSR報告書を読んで企業を選んでいるという話を聞きます。人によっては、SDGsが新しく出てきたものに感じられるかもしれませんが、若い世代にとってはSDGsがすでに当たり前のこととして存在していると思うので、その差はすごく感じています。

FRaUの読者の中には、私たちがSDGsを特集したことで実際に環境関連会社に転職された方がいて、それを聞いた時は、この先もしっかりしたものを作っていかなければと強く思いました。SDGsは競合とか関係なく、みんなで取り組んでいける目標だからこそ、一過性のものではなくきちんと続けていくことが大事です。

木幡放送って、「送りっ放し」って書くじゃないですか。つまり、残らない。私はそれがずっと引っかかっていたので『フューチャーランナーズ』は、短くても毎週放送されて、ウェブにアーカイブが残る、人に伝えた時に電車の中でも気軽に観てもらえるようなものにしたかったんです。今、私たちがこうして皆さんの前でお話しさせていただけているのも、SDGsが共通の目標としてあるからだと思うので、これからも色々な垣根を超えて一緒に取り組んでいけたらと思っています。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)/写真:廣瀬真也(spread)