市民のための環境公開講座2017

お知らせパート3のダイジェスト版を掲載いたしました。本年度の講座は全て終了いたしました。

PART3 自然災害への備えと環境問題

レポート

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異常気象と私たちの暮らし

飯島 希 氏

気象災害が甚大化している近年、災害を防ぐ「防災」から「減災」という言葉にかわり、災害を“防ぐ”ことから、命と財産をいかに守りながら被害を減らすか、ということに意識が変わってきています。そんな近年の異常気象を振り返り、その原因やこれから増加すると言われている異常気象によってもたらされる気象災害についてお伝えします。また、私達が日々の暮らしの中で、心がけておくことについてもお伝えします。

エコライフ実践者

飯島 希 気象予報士・防災士・環境カウンセラー・元NHK気象キャスター

気候変動が進むこれからの時代には、環境との共生が必要であると感じ、幼児期から自然観を育むよう5,6歳を対象に幼児向け環境教育を2008年から行う。スタート以来、延べ800人を越える幼児と触れ合う。しかし、人間の社会・経済活動においては、環境以外のあらゆる活動の調和(バランス)が重要であることから、現在は、エコロジー・エコノミー・そして人としての根底となる自己肯定感のバランス感覚を育むセミナー・イベント活動を行うとともに、従来の環境講演、ライター業の他、まちと人と幸せをつなぎ、地元川越の地域がさらに元気になる活動を行っている。


講座ダイジェスト

異常気象は新たなステージへ

近年、異常気象が珍しくなくなってきました。「異常気象」とは、30年間であるかないかの事象を指しますが、現実には、毎年どこかで何らかの異常気象が必ず起きています。

その象徴とも言えるのが、2011年8月の台風12号です。日本の年間総雨量が2000mmと言われる中、この台風だけで2000mmの総雨量を超え、この時から、気象庁が「最大級の警戒を」という呼び掛けを使い始めました。

2013年7月28日に島根・山口で降った大雨では、「直ちに命を守る行動を取るように」という警戒の言葉が用いられ、これを受けて、8月30日に「特別警報」が制度化されました。しかし、その僅か2週間後の9月16日には、台風18号によって京都で桂川が氾濫。その土地に不慣れな人々が集まる観光地で災害が起きた場合、どう対応するべきなのかという、それまでにない問題が新たに提起されることになったのです。

そして、2014年8月の広島豪雨では、3時間雨量217mm、外出するのが恐いと感じるほどの大雨が降り、これを受けて国土交通省は、「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を、翌2015年1月に提言しました。更に、この年の9月の豪雨では、茨城県で鬼怒川が決壊。関東地方でも大雨による甚大な被害が発生し、2016年の台風10号は、史上初めて東北地方に上陸した台風として、九州などに比べて大雨に対する盤石性がない東北地方にも台風被害を与えました。

このように現代は、300年に一回あるかないかの豪雨に備えておかなければいけない時代になりましたが、現実の洪水対策は、大河川なら30〜40年に一度の洪水害対策、中小河川なら5〜10年に一度の洪水害対策しか作られていません。地震や津波の対策は、既に最悪の事態を想定しているのに対して、我が国の洪水害対策は、現実に追い付けなくなっているのです。もはや大雨のステージが変わってきた今、私たちの備えも、新たなステージにシフトしていかなければならない局面にいるのです。

防災のインテリジェンスを上げよう

気象庁は、このような豪雨の原因について温暖化によるものだとは言いません。「その頻度が増える」という言い方に留まっています。しかし、海面温度が高くなれば、大気中に蒸発していく水蒸気量が増えるために、台風が強大化すると関連性を説明しています。

今後も増えていくであろうこのような事態に備えて、もちろん、国や自治体などの上流側も体制を構築しています。例えば、災害が予想される場合、その局面ごとに気象庁・河川事務所・自治体が、それぞれ何をやるべきなのか、その役割を細かく組み上げた「防災タイムライン」が各地域で作られています。また、大規模災害が発生、或いは、その恐れがある場合に、現地へ出向いて自治体や首長に指示・助言を行う国の組織「TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)」などがあります。

一方で、私たちの暮らしや命を、上が守ってくれる訳ではないことを理解しておくことも大変重要です。そのために個人個人がやるべきことは色々あります。例えば、緊急時の避難方法をそれぞれが考えておかなれけばなりません。そして、自分が住む地域で氾濫しやすい場所はどこなのか、自分が住む家の地盤はどうなのか、かつてそこは台地だったのか、畑だったのか、田んぼだったのかまで遡って調べることも必要です。また、家を購入する場合には、その土地の災害履歴を調べることもお願いしたいです。このようなことを、私は「防災に対するインテリジェンス」と呼んでおり、今後ますます必要とされるものだと考えています。

心の癖を知って、情報に目を向けよう

私は、2001年から地球温暖化についての啓発活動をしています。当初、科学的データを示して説明していけば、人々は分かってくれると信じて活動し、マスメディアを通して発信し続けました。しかし、サイエンス的アプローチだけでは人は変えられないことを痛感しました。「温暖化の原因は、本当に人間活動によるものなのか?」、「温暖化の原因は、本当にCO2なのか?」という懐疑的意見は今でも存在しており、科学的データだけでは、そうした人々の心理にアプローチすることは難しいのです。では、この問題をどのように捉える必要があるのでしょうか。

かつて私は、今すぐCO2の排出量がピークアウトしても、気温上昇や海水面上昇などの影響が100〜1000年単位で残ることを示す折れ線グラフを見て、内心絶望していました。こんな未来が待っているなら子供は産まないとまで思っていました。

しかし、ある時、そのグラフのX軸には100とか1000とか年数が書いてある一方、気温や海水面の上昇値を示すY軸には何の単位も記されていないことに気付いたのです。それまでの私はマイナス思考に陥っていて、グラフの曲線を見ては、Y軸に大きな数字を勝手に当てはめて、ネガティブに見ていただけだったのです。他にも様々な情報が出されているにもかかわらず、悪い数字ばかりに目が行っていた自分に思いが至った時、「人は、自分が好む情報をキャッチする癖がある」ということに気づいたのです。そして、そんな自分の心の癖が分かった瞬間、視野が一気に広くなり、温暖化に対して懐疑的な意見にもきちんと目を向け、色々な情報をキャッチできるようになりました。その結果、未来は何も決まってなくて、今、私たちが行動すれば未来はいくらでも変えられると考えが変わったのです。

今後、温暖化の問題を考えたり、情報をキャッチする時、ぜひこの点も意識しながら、希望を持ってみなさんの活動を進めて頂ければと思います。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)