市民のための環境公開講座2017

お知らせパート3のダイジェスト版を掲載いたしました。本年度の講座は全て終了いたしました。

PART2 未来世代へのメッセージ

レポート

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本当の環境問題

池田 清彦 氏

人類にとって最も重要な資源は、食料とエネルギーです。科学技術は食糧の増産と新しいエネルギーの開発を可能にしましたが、人類は、資源が増えれば人口も増え、人口が増えればさらに資源が必要になって、その結果さらに人口が増えるという、ポジティブフィードバックに陥ったままです。このままでは人一人当たりの資源は増えず、人々は幸福になりませんし、自然環境の破壊も進みます。本当の環境問題は人口問題なのです。

「ホンマでっか!?TV」でおなじみ

池田 清彦 早稲田大学教授


講座ダイジェスト

増え続ける人口とエネルギー問題

人類は今から1万年前までに、地球上の主な住める地域に広がったと言われています。その時の人口は500万人でした。その後、7000年前まで人口はほとんど増加しませんでしたが、この頃に農耕が始まり、以後、人口が爆発的に増えました。そして10億人になったのが19世紀、人類が石炭をエネルギーとして使うようになった時代です。さらに石油を使うようになり、現在74億人にまで増えました。人類にとって重要な資源とは「エネルギー」と「食料」ですが、人口が増えれば資源が必要になり、その結果さらに人口が増えるという悪循環に陥っています。このままでは一人当たりの資源は増えず、エネルギー問題と食料問題をどう解決するのかが人類の大きな課題です。

エネルギー問題の解決策として自然エネルギーが重要だと言われますが、問題点もあります。風力発電は、オランダやドイツのように風速7mくらいの風がコンスタントに吹かないとダメですし、メガソーラーには、太陽光バネルの寿命問題があります。一般に10〜15年と言われていますが、今ある太陽光パネルが、やがて瓦礫の山になる時のことを考えている人は少ないようです。また、メガソーラーを増やすには相応の広さの土地が必要ですが、わが国ではどうでしょうか。その土地の下に暮らす生き物の問題もあります。そして、これらのエネルギーは安定性に欠けるため、依存度が高まれば高まるほど、停電の可能性が増えます。となると、バックアップを用意しておく必要があり、結果的に火力発電も必要になるという矛盾が生じるのです。

一方、原子力については、ウランがあと90年でなくなると言われています。そのため、廃棄燃料を再利用する高速増殖炉のもんじゅが開発されていますが、使われていません。そもそも、もんじゅは、維持するのに1日5000万円かかる上、セキュリティー上賢い選択ではありません。しかし、廃炉にするにしても、その手順が分かってませんし、それにも莫大なお金がかかります。動かさなければマイナスが増え続けるし、稼働させれば多少でもプラスを生み出すとしたら、どう判断するべきでしょうか。例えば、住まないまま持ち続けている家があったとして、税金ばかり取られてしまうなら、その家は、壊すのか住むのかという選択になるのと、同じような状況にあると言えるでしょう。

将来性ある資源とは?

こうしたエネルギー事情を考えると、日本が、自前で生み出せる安定的なエネルギーについて、より前向きな検討が必要ではないでしょうか。

その一つとして挙げられるのが地熱発電です。これまでわが国では、多くの地熱発電所の建設場所が国立公園の中にあることがネックとなっていましたが、法律を変えて作れるようになりました。しかし、設置費用やメンテナンス費用が莫大なことが課題となっています。

もう一つは、藻類です。ボトリオコッカスなどがその代表ですが、光・水・炭酸ガスがあればいくらでも増やすことができ、光合成によって合成されるオイルがガソリンの代替燃料として期待されています。カーボンフリーでやれる点が大変魅力的ですが、現在の課題は、コストが高いことと、他の藻類が混ざらないようにする精製技術が必要なことです。将来的には、効率的な人工光合成技術が開発されれば、期待が高まるのではないでしょうか。

また、資源問題のうちの「食料」についても、将来的にどう確保していくかを考えておく必要があります。今、世界は100億人を食べさせるくらいの食料を作ることはできるのですが、地域的な偏りがあるために10億人が飢えています。今後の人口増加によって、これはさらに深刻な問題になるでしょう。そのため、現在すでに幹細胞から食肉を作る技術が確立されています。するとわざわざ家畜を殺して食べる必要がなくなるので、いずれはそのような行為が罪とされる時代がくるかもしれません。幹細胞から作るお肉は、現在100g1000円程度と高いのですが、これが100円くらいまで下がれば、皆そっちを食べるようになるのではないでしょうか。

私は、虫を食べることに注目しています。私たちが一般的に食べているものの中で、虫に一番近いのはエビやカニで、例えば、コオロギは、目をつぶって食べると小エビそっくりです。ベトナムではコオロギの養殖が進んでいて、このビジネスによって、現地では「コオロギ御殿」が建つほど繁盛しています。魚の養殖もエネルギー効率は悪くはありませんが、成長に時間がかかります。一方、食用昆虫の養殖は、一ヶ月で食べられるようになりますし、餌はその辺の草で構わないのでエネルギー効率が遥かに高く、将来大きく発展する可能性があります。

コスト&ベネフィットで考える

これらの問題を考えていく際に大切なのは、「コストとベネフィットを考える」ことです。つまり、それを払って何を得られるのかです。私たちの国は、年に1兆円かけてCO2を削減することに一生懸命ですが、果たしてそれだけのメリットがあるのでしょうか。トランプ大統領はパリ協定を離脱しました。日本だけが真面目にやっても、世界の足並みが揃わないのでは意味がないこともあるのではないでしょうか。先ほどお話しした自然エネルギーの開発にしても、原子力政策にしてもそうですが、先の計算が立たないままにお金を使っているようでは、得るものはありません。

人口が増え続ける人類にとって、安定的に存在していくための最も大きな環境問題はエネルギー問題です。エネルギーがなければ、食料を作ることもできないですし、文化的生活もできません。化石燃料、原子力、自然エネルギー、それぞれのメリットやデメリットをよく考えて、これからのエネルギー政策がどうあるべきかを考えていかなければならないのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)