パート3・日本の知恵に学ぶ
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第1回 ・

江戸のエコロジー

2008年01月15日


石川 英輔 氏 【作家】


今日は「江戸のエコロジー」というテーマですが、本当は江戸時代の事なんてどうでもいいんです。私達が考えたからといって江戸時代のことを1mmも動かす事はできませんし、それが今の私達に影響を与えられるかといったら甚だ疑問です。また江戸時代がほぼ完全な循環構造だったことは確かですが、これも別に私達の先祖がそう心掛けた訳ではありません。私達とって大事なのは、まず自分達がどういう状況に置かれているかを知る事、そしてじゃあどうすればいいのかという事なんです。

矛盾するようなことを言いますが、それを知るのに江戸時代というのはとても参考になります。今と同じ基準で計算すると、この時代の世の中はゼロエネルギーで動いていました。ほんの僅かな金属の道具類を除くと、資源の殆ど全ては植物だったのです。今年食べるお米は昨年の太陽エネルギーで出来ていて、それを育てる人間は昨年の穀物をエネルギーにして動いており、昨年の穀物は一昨年の人間の労力と太陽エネルギーから…といった具合です。

一方、今の私達の消費エネルギーは、日本人1人当たりで1日10万kcal(化石燃料分)です。10万kcalというのは、0℃の水1t…家庭用の浴槽が大体200・なので5杯分ですが、これを沸騰させるのに必要なエネルギーです。こういった現代の生活についてちょっと考えてみましょう。消費エネルギーの半分は民生部門用で、その半分の25%は運輸エネルギー、そしてこの運輸エネルギーの半分以上は私達が乗る乗用車が消費しています。例えば、私が乗っている1500ccの車の重量は1.1t、私の体重は67kgです。これはまるで私が車を運転しているというより、1.1tの金属に私がへばりついているようなもので、なぜ67kgの人間が1人移動するのに1.1tもある金属を動かさなければならないのでしょう?

私は今74歳ですが、高校時代に住んでいた家を思い出すと、そこにモーターは1個もありませんでした。冷蔵庫、洗濯機、エアコン…家の中にモーターが何個あるかを答えられる人は今いるでしょうか。自分は毎日10万kcalも使ってないと感じている方もいると思いますが、こういう生活をしていれば、それだけのエネルギーが必要になるのは当たり前なんです。

便利さを得るために果たしてこれだけのエネルギーを消費する必要があるのでしょうか?…と言うと、まるでお決まりの環境問題の話になりそうですが、私はそういうのがあまり好きではありません。地球の事、トキやパンダやメダカの事なんてどうでもいいと思っています。一番大事なのは、自分自身の「体」ではないでしょうか。何でもかんでも機械にやって貰うことが、本当に自分の体にいいのでしょうか。何でもAUTOで動くと思っている子供達はそれでいいんでしょうか。私は『人類は豊かさに耐えられない』という言い方をしているんですが、全てを機械がやってくれるかのような生活に私達人間は適応できないと考えています。

2006年に千葉県市川市の市立小中学校で生活習慣病調査をした所、10%が明らかに発病しており、20%がこのままいくと生活習慣病、より具体的には16%が高血圧だと診断されたそうです。かつて昭和40年代には「老人病」と呼ばれたものが、50年代には「成人病」となり、60年代には「小児成人病」という言葉まで登場しました。そして、平成8年には「生活習慣病」という世代を問わない名称が使われるようになったのです。

パンダだなんだと言う以前に私達自身が危ないんです。私達にとっていい生活をすれば、それがパンダにも繋がります。ゼロエネルギーで生産を行っていた江戸時代の驚異的な生産効率…それを支えていたのは、せっせせっせと体を動かすことでした。私達は「進歩」という名の下に体を動かす事を奪われたのです。環境問題を地球とかCO2とかパンダのために考えるのではなく、自分自身の体を守ることとして考えてみる必要があるのではないでしょうか。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)


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