パート2・社会科学系温暖化論
お申込み



第4回 ・

地球温暖化の影響と適応

2007年11月27日


原沢 英夫 氏 【(独)国立環境研究所 社会環境システム研究領域長】


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化についての科学的根拠を扱う第1作業部会、その影響や適応策について評価を行う第2作業部会、緩和策について扱う第3作業部会という3つのワーキンググループがあり、私は第2作業部会に所属しています。その第2作業部会が2007年4月6日に記者発表した第4次評価報告書では、「温暖化の影響が世界中で顕在化・深刻化」しているということがはっきりと打ち出されました。

全ての大陸とほとんどの海洋において、多くの自然環境が、地域的な気候の変化、特に気温の上昇により今まさに影響を受けています。具体的にどんな所に影響が出ているかというと、まず雪や氷の世界が挙げられます。北極の氷の崩壊、氷河湖が崩壊して下流域で引き起こされる洪水、水量の増加による水循環の変化、水温上昇による水質悪化などがそれです。次に、桜が早く咲いたり紅葉が遅くなったりという陸生生物への影響ですが、これも世界中で同様の事例が報告されています。

また、特にヨーロッパを中心に海洋生物・水生生物の生息地域が北に移動していることが、単にニュースとしてではなく、科学的な論文として証明されるようになったことは重要なポイントです。更にこれらに加えてこの第4次評価報告書では、これまでの自然への影響だけでなく、人間社会への影響についても盛込まれました。例えば、北半球での耕作時期の早期化、火災や害虫による森林かく乱の変質、健康被害という点ではヨーロッパの熱波や途上国での感染症、北極圏での人間活動(狩猟や移動)、雪山登山やスキーなどの山岳スポーツへの影響です。

続いて、温暖化影響の将来予測について見てみましょう。まず生態系についてですが、今後、世界平均気温が1990年頃に比べて1.5〜2.5℃上昇すると30%の動植物が、4℃上昇すると40%の動植物が死滅してしまうと見込まれています。また淡水資源への影響については、高緯度地域と温潤熱帯地域では利用可能水量が増加するというプラス面がある一方、中緯度地域と乾燥熱帯地域、山岳地帯から雪解け水の供給を受けている地域ではこれが減少すると予測されています。食糧への影響も両面があり、例えば、熱帯地域では世界平均気温が1〜2℃上がっても悪影響が出ますが、中国北部やシベリア等これまで寒かった地域では農業が出来るようになります。概ね世界平均気温の上昇が1〜2℃程度の場合は+−両面が出ますが、3℃を越えると総じて悪影響になってしまうと言われています。

海面が1990年頃に比べて18−59cm上昇すると予測されているので、沿岸域と低平地の影響が現れます。海面上昇が少ない地域でもカトリーナ級のハリケーン等が来た時のことを考えると、洪水と暴風雨による損害の増加は温暖化が進んだ途端に出てくると言えるでしょう。更に人の健康への影響については、熱波のような直接的影響と感染症のような間接的影響の2つが考えられ、その両方が温暖化のかなり早い段階で出てくることが分かっています。感染症研究者の方によると、日本ではマラリアは大丈夫だそうですが、テング熱などの都市型感染症については、媒介する蚊が段々北上している状況があるため、条件さえ揃えば日本で感染が発生してもおかしくないという見解が持たれています。

このように温暖化の影響とは、それを免れる地域というのは存在せず、世界平均気温の上昇が2〜3℃になると、どの地域でも恩恵が減る、もしくは損失が増える可能性が非常に高いものです。そして、その影響そのものがすでに世界各地で現れているという事実が、今ここにあるのです。

これまでは、「50年後・100年後に気温が上がる・降水量が変化する。だから今私達が頑張れば、将来いい環境を残せる」という話で来た訳ですが、もはやこれは、子供や孫の時代の問題であるだけでなく、私達の時代の問題でもあることを認識して頂きたいと思います。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)


トップに戻る