パート1・自然科学系温暖化論
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第3回 ・

地球温暖化の現状と将来予測

2007年10月09日


江守 正多 氏 【(独)国立環境研究所 地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長】


すでに皆さんご存知のように、地球は「温室効果」があるために私達生物が住むのに適した温度に保たれています。つまり温室効果とは、そもそもは自然に出来上がった“いいもの”であり、これを持つ地球にたまたま存在した我々人類は、その温度にちょうどいいような文明を築いたとも言えるのです。そして、この温室効果が人間のせいで更に強まってしまうのが「地球温暖化」であり、温暖化を引き起こす主要な物質である二酸化炭素濃度の過去1000年の推移を調べてみると、ずっと280ppm前後で維持されていたものが、ここ200年くらいの間に急増し、現在は380ppmくらいと3割5分も増えてしまいました。

そこで地球の気温を変化させている様々な要因をコンピューターに入力して、全地球平均地表気温の変化を見てみると、20世紀前半では上昇傾向が見られ、その後一旦下降に向かった後、20世紀最後の40年位で大きく上昇し、実際に観測された気温の変化がほぼ再現されます。これと同様の分析を、気温を変化させる要因のうち「人為的要因だけを入力」した場合、「自然的要因だけを入力」した場合のそれぞれと比較してみると、前者では最後の40年の気温上昇曲線が観測された上昇傾向と酷似してくるのに対して、後者ではむしろ下降気味の曲線を描きます。この結果から、少なくとも最近数十年の気温変化は、人間活動による影響を考えないと観測された気温上昇が説明できないと言えるのです。

これと同じコンピューター分析を「将来」に対して行うとどうなるでしょうか。その前提となる将来の世界の社会経済はもちろん予測不可能です。そこで様々なシナリオを考えて分析結果を求めます。世界中の研究者がこの予測を行っていますが、それらの結果をIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめたデータによると、地球平均地表気温は21世紀末までに1.1〜6.4度上昇すると予測されています。様々な社会経済シナリオを考えたことと、コンピュータによる予測が完全でないことで、この数字の差は幅のある不確かな予測に見えるかもしれませんが、「不確かさの幅」とは逆に言うと「確かさの幅」でもあります。これだけの範囲の中で気温上昇が起こるのだと捉えるべきものでしょう。

この気温上昇によって懸念される人間社会への影響は次の通りです。
1.熱帯、亜熱帯での作物生産性の低下(温暖化が進めば中緯度でも低下) 
2.多くの水不足の深刻な地域で水資源がさらに減少 
3.マラリアなどの伝染病感染の危険にさらされる人口が増大 
4.熱中症患者が増大 
5.強い降水と海面水位上昇により洪水の危険性が増大

我々研究者はコンピューターを使って様々な予測分析をしていますが、コンピューターによる予測結果が常に正しい訳ではないことも分かっていますので、得られた結果全てではなく、その中から確からしいことを発表しています。そうしたものを照らし合わせてみても、温暖化は既に起こっており、対策を取らなければ間違いなく深刻化すると言えるでしょう。確かに気温上昇量の将来予測には不確かさがありますが、予測のいくつかの側面は信頼性が高いものです。大切なことは、予測が確かになってから判断すればいいのかということです。自然を相手にした問題である以上100%ということは現実的にあり得ず、不確実な情報をもとに行動していくことが当然求められる訳です。これは温暖化問題に限ったことではなく、企業の経営判断にしても、ある朝に傘を持って出るかどうかにしても、皆さんが普段からやっていることなのではないでしょうか。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)


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