市民のための環境公開講座2024

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。

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10/30 18:00 - 19:30

カカオを通してつくるAll-winな社会の実現に向けて

足立 こころ 氏 Dari K株式会社 経営戦略部

私たちdari Kはインドネシア・スラウェシ島に現地法人を構え、カカオ農家のみなさんと共に品質の良いカカオ豆作りに取り組んでいます。国際市場の影響を受けるコモディティーとしての側面を持つカカオは、現在気候変動の影響で、その供給が大きく揺らいでいます。カカオ生産者はもちろん、消費者にも環境にもwinをもたらせるような、dari Kのフェアトレードを超える取り組みをご紹介しつつ、All-winな社会の実現に向けて、共に考える時間にできればと思います。

講座ダイジェスト


インドネシア産カカオ豆の現状

カカオの生産地は、アフリカや中南米がよく知られていますが、dari Kはインドネシアのスラウェシ島で取れたカカオを扱っています。インドネシアは世界でも有数のカカオ生産国ですが、インドネシアから日本に輸入されるカカオ豆は1%にも満たない程度です。

距離的に近い日本に、インドネシアのカカオ豆が入ってこないのには理由があります。カカオは発酵工程によってチョコレートにした時の深い味わいや、豊かな香りのもとが作られるのですが、インドネシアは未発酵のカカオ豆を出荷してきたのです。そこでDari Kは「丁寧な発酵工程と、その後の工程を経ることによって、おいしくて香り豊かなチョコレートになる」と考え、取り組みを始めたのです。





まず発酵をしない理由を掘り下げたところ、インドネシア国内には発酵させても報われにくい状況がありました。発酵工程は結構な重労働で、乾燥工程を入れると10日~2週間もの日数がかかってしまいます。一方でカカオの豆の価格はニューヨークやロンドンの国際市場で決まるのですが、インドネシア市場には発酵工程などを評価する仕組みも価格体系もなかったのです。発酵の努力が認められることなく同じ価格で買い取られるため、発酵させないカカオ豆が生産されてきたのです。



発酵の価値を高めて、より良質なカカオ豆を作る

私たちは創業当初、カカオ農家に個別の発酵指導を行いました。4~5年続ける中で攪拌作業にかける時間や丁寧さの違いで、どうしても発酵や品質にばらつきが出ることがわかってきました。そこで現在は現地法人のKICが集中発酵と管理をすることで品質の安定化を図っています。また、いつ豆が入荷し、発酵はいつ始まって乾燥がいつ終わったかといったところまでをログで追いかけています。その一方でカカオ農家には品質管理の指導を受けてもらいながら、農園のメンテナンスや、よい発酵を作り出すための選別に力を注いでもらっています。







dari Kの目指すAll-winなチョコレートづくり

現在のdari Kは、循環型社会の創出も目指しています。カカオ農家ががんばった努力の部分を適正な価格で買い取るのはもちろん、品質がいい、健康にいいといったことを重視し、よりよいチョコレート製品を開発し続けたいと考えています。また、気候変動対策を講じながら適正な「アグロフォレストリー」を実践するといった環境対策にも、少しずつアプローチしています。これらを通じてカカオ農家、dari K、消費者のwinを考えていくことで、All-winを目指せるようなチョコレートづくりを目指しています。



一般的なフェアトレードとdari Kの違い

一般的なフェアトレードとの違いは「生産者ががんばっているのにかわいそう」といった一方的な施しのような位置づけではなく、農家が付加価値の付いた、いい品質のものを作ってくれるから、適正価格で買い取っていることと、そのことをお客様にも理解していただいた上で価格設定していることです。このようにフェアトレードを超えた形で現地の方々と一緒になって、素材の川上であるカカオの栽培から最終商品のチョコレート作りまで、一貫して関わっているのです。

また、付加価値を上げる活動として「特別発酵」の開発にも取り組んでいます。これは現地で採れるバナナ、ココナツ、ライムなどのいろいろな素材を一緒に入れて発酵させることで、そのものの特徴がカカオに移りつつ、発酵中の微生物の動きに働きかけられる素材を探すといった取り組みです。その一環として東京の店舗では、ライムと一緒に発酵させたチョコレートドリンクの提供などを始めています。



課題は環境に配慮した農園管理

今年に入って、カカオの生産量が多い西アフリカの国々で病害がまん延し、生産量が急落したことなどから、カカオの価格はもとより、チョコレートの価格もどんどん上がっています。インドネシアにも大きな影響を及ぼす病害がありますが、生産性がダウンすると農家の収入ダウンにつながってしまいます。また「カカオ豆栽培は非常に不安定」と考える農家が、栽培をやめてしまうことも考えられます。そこで私たちは、環境に配慮した農園管理へのアプローチも検討しているところです。



一方でチョコレートやカカオ豆に強い関心がある日本の方々を、スラウェシ島の農園地域にお連れする「カカオ農園ツアー」を実施してきました。農園訪問、発酵や乾燥作業の見学、チョコレート作りなどのワークショップ、地域を理解してもらうための市場や伝統芸能見学などを通じて、カカオ農家と消費者をつなぐコンテンツになっています。




すべてのチョコレート製品の裏側にはカカオ農家がいるので、今日、ご視聴の皆さんもあまり難しいことは考えず、楽しんで食べていただきたいと思っています。また、All-winにつなげるために、ぜひいいと思うメーカーを応援し、継続的に買っていただけると幸いです。


ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します。今回は視聴者の皆さんとの対話を多めにしたいとの趣旨でQ&Aを多めにしています。

質問1All-winという発想の中で、生産者にとっての一番のwinや付加価値は、どのような点にあるのでしょうか?

回答いいものを作り、がんばったことが価値として認められて、それが適正価格のおいしいチョコレートになっていく。それによって収入が上がっていくことが大きいと思います。また、取り組みを継続していった先で、たとえば日本の消費者と会えて、おいしく食べられていることがやりがいにつながると思い、カカオ農家を日本に招待することも考えています。

質問2価格が向上することで、生産者にとってどのようなポジティブな変化が起きているのでしょうか?

回答一番わかりやすいのが新しい家具を買う、車を変えるなど生活がよくなっていることです。また、新たなカカオ農園を買う人もいます。さらに、それまでは奥さんが別の売店を営んでいたけれど、収入が上がって農園を増やしたため、奥さんも売店をやめて農園でがんばるようになり、より家族の収入が増えた農家もいます。中には大学などのお子さんの高等教育にお金をかけられるようになった農家もいます。

質問3農園を拡張していく際に、森林を切り開くことにはならないのでしょうか?

回答カカオ農園は単一農法と思われがちですが、ココナツやバナナの木も植えられています。また、カカオが直射日光に弱いということもあり、シェードツリーと呼ばれる高木を植えることも多いです。私たちもいろいろな作物を一緒に混植することで森をつくるような「アグロフォレストリー」という農法を推奨しています。カカオの収量が下がってもココナツなどを自家消費する、または販売できるといったメリットがあります。

質問4未発酵の豆は、どのような用途で使われているのでしょうか?

回答ベースビーンズと呼ばれ、味などにあまり特徴のないチョコレートの原料として使われています。例えばフレーバービーンと呼ばれる特徴のあるカカオ豆を少し足す場合などに、ベースとして使われるのです。また、カカオバターが30℃程度で溶け始める特性を生かし、ごく少量ですが座薬などの医療用で使われています。さらに、カカオバターの保湿力を生かし、化粧品でも使われています。

質問5捨てる部分も多いと思いますが、カカオの果肉は食べられるのでしょうか?また、廃棄物削減や、廃棄物再利用などはしていますか?

回答果肉の白い部分は基本的に発酵で利用していますが、果肉の味自体は非常に甘酸っぱいものの食べられます。でも、インドネシアの私がいた地域では「昔に食べたらおなかが痛くなるとお父さんに言われた」と言うカカオ農家がいます。もしかすると「商品になるものに悪さをするな」という意味で言っていたのかもしれません。いずれにしても現地では換金作物と割り切っているようです。再利用については、メインの商品であるチョコレートトリュフのパッケージや、いくつかの商品パッケージに、生分解性のある素材としてカカオ豆のハスク(種皮)を混ぜています。