市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。
インドネシア産カカオ豆の現状
カカオの生産地は、アフリカや中南米がよく知られていますが、dari Kはインドネシアのスラウェシ島で取れたカカオを扱っています。インドネシアは世界でも有数のカカオ生産国ですが、インドネシアから日本に輸入されるカカオ豆は1%にも満たない程度です。
距離的に近い日本に、インドネシアのカカオ豆が入ってこないのには理由があります。カカオは発酵工程によってチョコレートにした時の深い味わいや、豊かな香りのもとが作られるのですが、インドネシアは未発酵のカカオ豆を出荷してきたのです。そこでDari Kは「丁寧な発酵工程と、その後の工程を経ることによって、おいしくて香り豊かなチョコレートになる」と考え、取り組みを始めたのです。
まず発酵をしない理由を掘り下げたところ、インドネシア国内には発酵させても報われにくい状況がありました。発酵工程は結構な重労働で、乾燥工程を入れると10日~2週間もの日数がかかってしまいます。一方でカカオの豆の価格はニューヨークやロンドンの国際市場で決まるのですが、インドネシア市場には発酵工程などを評価する仕組みも価格体系もなかったのです。発酵の努力が認められることなく同じ価格で買い取られるため、発酵させないカカオ豆が生産されてきたのです。
発酵の価値を高めて、より良質なカカオ豆を作る
私たちは創業当初、カカオ農家に個別の発酵指導を行いました。4~5年続ける中で攪拌作業にかける時間や丁寧さの違いで、どうしても発酵や品質にばらつきが出ることがわかってきました。そこで現在は現地法人のKICが集中発酵と管理をすることで品質の安定化を図っています。また、いつ豆が入荷し、発酵はいつ始まって乾燥がいつ終わったかといったところまでをログで追いかけています。その一方でカカオ農家には品質管理の指導を受けてもらいながら、農園のメンテナンスや、よい発酵を作り出すための選別に力を注いでもらっています。
dari Kの目指すAll-winなチョコレートづくり
現在のdari Kは、循環型社会の創出も目指しています。カカオ農家ががんばった努力の部分を適正な価格で買い取るのはもちろん、品質がいい、健康にいいといったことを重視し、よりよいチョコレート製品を開発し続けたいと考えています。また、気候変動対策を講じながら適正な「アグロフォレストリー」を実践するといった環境対策にも、少しずつアプローチしています。これらを通じてカカオ農家、dari K、消費者のwinを考えていくことで、All-winを目指せるようなチョコレートづくりを目指しています。
一般的なフェアトレードとdari Kの違い
一般的なフェアトレードとの違いは「生産者ががんばっているのにかわいそう」といった一方的な施しのような位置づけではなく、農家が付加価値の付いた、いい品質のものを作ってくれるから、適正価格で買い取っていることと、そのことをお客様にも理解していただいた上で価格設定していることです。このようにフェアトレードを超えた形で現地の方々と一緒になって、素材の川上であるカカオの栽培から最終商品のチョコレート作りまで、一貫して関わっているのです。
また、付加価値を上げる活動として「特別発酵」の開発にも取り組んでいます。これは現地で採れるバナナ、ココナツ、ライムなどのいろいろな素材を一緒に入れて発酵させることで、そのものの特徴がカカオに移りつつ、発酵中の微生物の動きに働きかけられる素材を探すといった取り組みです。その一環として東京の店舗では、ライムと一緒に発酵させたチョコレートドリンクの提供などを始めています。
課題は環境に配慮した農園管理
今年に入って、カカオの生産量が多い西アフリカの国々で病害がまん延し、生産量が急落したことなどから、カカオの価格はもとより、チョコレートの価格もどんどん上がっています。インドネシアにも大きな影響を及ぼす病害がありますが、生産性がダウンすると農家の収入ダウンにつながってしまいます。また「カカオ豆栽培は非常に不安定」と考える農家が、栽培をやめてしまうことも考えられます。そこで私たちは、環境に配慮した農園管理へのアプローチも検討しているところです。
一方でチョコレートやカカオ豆に強い関心がある日本の方々を、スラウェシ島の農園地域にお連れする「カカオ農園ツアー」を実施してきました。農園訪問、発酵や乾燥作業の見学、チョコレート作りなどのワークショップ、地域を理解してもらうための市場や伝統芸能見学などを通じて、カカオ農家と消費者をつなぐコンテンツになっています。
すべてのチョコレート製品の裏側にはカカオ農家がいるので、今日、ご視聴の皆さんもあまり難しいことは考えず、楽しんで食べていただきたいと思っています。また、All-winにつなげるために、ぜひいいと思うメーカーを応援し、継続的に買っていただけると幸いです。