市民のための環境公開講座2017

お知らせパート3のダイジェスト版を掲載いたしました。本年度の講座は全て終了いたしました。

PART1 海から見た環境問題

レポート

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素潜り水深100mから見た世界の海

篠宮 龍三 氏

素潜りでどれだけ深く潜れるかを競い合うフリーダイビング競技を約20年間行ってきました。これまで沖縄、地中海、紅海、ハワイ、カナダ、カリブ海などの世界の海へ遠征。また昨年競技を引退し、今年はロシアのバイカル湖、スリランカの海世界に訪れ、素潜りで撮影してきました。世界の海で今何がおきているのか?写真や映像、そして実体験をもとにお話しさせていただきます。

アジア人初の水深100m到達

篠宮 龍三 フリーダイバー


講座ダイジェスト

フリーダイバー・篠宮龍三

私は、フリーダイビングを18年やってきました。フリーダイビングとは、ラテン語の「アプネア=息こらえ」がその語源で、素潜りでどれだけ深く潜れるかを競う競技です。イタリア、フランスを中心にヨーロッパでは半世紀の歴史があり、世界で最も深く潜った人の記録は、なんと250mです。

私は、大学時代、探検部に所属し、将来は自然や環境に関わる仕事をしたいと思っていました。そんな時、映画「グラン・ブルー」を観てフリーダイビングを知り、人類で初めて水深100m超えた主人公のジャック・マイヨールに憧れたことがきっかけで、フリーダイビングを始めました。

フリーダイビングには、スタティック、ダイナミック、コンスタント・ウィズ・フィン、コンスタント・ノー・フィン、フリー・イマージョン、バリアブル・ウェイト、ノー・リミッツという種目がありますが、その中で私は、コンスタント・ウィズ・フィン(フィンを装着して、自分の泳力でどれくらい潜れるかを競う)で115m、フリー・イマージョン(垂直に張ったガイドロープを伝ってどれくらい潜れるかを競う)で104m、コンスタント・ノー・フィン(フィンなしで、自分の泳力でどれくらい潜れるかを競う)で66mという、いずれもアジア記録を持っています。115mというと、東京・お台場の観覧車の高さと同じですが、水深115mの世界とは、地上の12.5倍の水圧がかかり、音もなく、青い暗闇のような場所で、海というより宇宙にいるような感覚になります。潜るのに2分、戻るのに1分半かかるその深さまで行った人は、世界でまだ8人しかいません。

世界の海を潜って感じる地球環境の変化

昨年競技を引退した私は、沖縄・那覇市に在住し、世界の海を実際に潜って撮影する写真家としても活動しています。その私が、世界の海を潜って感じた環境問題についてお話ししましょう。

地元・沖縄で私が普段潜っているのは恩納村の真栄田岬です。この海では、昨秋、サンゴが白化し、死滅しました。サンゴの白化は海水温上昇によって引き起こされますが、実は、以前から死滅しては復活するというサイクルを繰り返しています。ただ、そのサイクルが、昔は15年に1回くらいだったのが、最近は8年に1回程度と早くなってきています。また、この冬はクジラが姿を現わすこともありませんでした。これも海水温が1〜2℃高かったことと関係しているようです。人間の感覚では、「1〜2℃程度で・・」と思うかも知れませんが、クジラにとって、これは10〜20℃に相当します。一方、奄美ではクジラが例年より多く見られました。今年、沖縄の海は彼らにとって暑かったので、奄美止まりだったのかも知れません。また、石垣島では、一昨年は元気だったコモンシコロサンゴが、去年は真っ白になって死滅していました。しかし、今年見に行くと、僅かに復活していました。サンゴは、例えば、海水温が下がるなど、生息のための条件が良くなれば、一旦死滅しても復活する生き物なので、私は、この点に関して、あまり悲観的な見方はしていません。

海外の海では、ミクロネシアのジープ島で少し前に潜りました。ここは太平洋戦争の戦闘や、戦後は地元住民のダイナマイト漁による漁業活動で、サンゴをはじめとする自然環境が破壊されました。しかし最近は、ダイナマイト漁も禁止され、サンゴは復活の途上にあります。

今年は、ロシアで、世界最古の湖、そして水深1600mという世界一深い湖のバイカル湖で潜りました。冬場に張る氷の厚さは1m以上になるにも関わらず、その氷は透明度が高いという高純度の湖水で、その氷の下を潜るという体験は、まるでクリスタルの世界に飛び込んだような貴重なものでした。しかし、この湖の水温も去年は2℃位高く、例年なら12月にもなれば湖の上を車で走れるほど氷が厚くなるのですが、去年は車が氷を割ってしまうトラブルも起きたそうです。

スリランカには、地球最大の生き物・シロナガスクジラが生息しています。実は去年行った時には、本来なら見られるはずのシロナガスクジラを見ることができませんでした。さらに今年は、現地で渇水が起きており、気候が変わってきたと人々は語っています。

話は日本に戻りますが、熊本・天草では、漁師さんから台風のコースが最近おかしいという話を聞きました。九州を通って本州へ抜けていく、かつてのようなルートでないというのです。台風は、人間にとっては厄介なものですが、それによって海水が攪拌されて、ヘドロを流し、水温を下げる働きがあり、海の生き物にとっては必要な自然現象です。そのためか、天草では海草が最近あまり育たず、その一方でサンゴが増えているそうです。このことは、海草を餌にしている生き物に影響が出るのではないかと懸念されています。

“ONE OCEAN” まず目の前の海を大切に

このようにフリーダイバーとして、写真家として、世界の海を潜って回る私が、自分自身のメッセージとして掲げている言葉が、『ONE OCEAN』です。

「7つの海」とよく言われますが、それぞれの海が繋がっているからこそ、大航海時代、人類は海を渡っていくことができました。つまり、この地球の海は一つなのです。

沖縄に住んでいて、海に隣の国のゴミが流れてきているのを、よく目撃することがあります。また、どこかの国は、世界を巡る豪華客船の船内に出たゴミを、海に捨てて行ってしまうそうです。一方、バハマの海には、なぜかポケットティッシュの袋が多く捨てられているそうです。そして、隣の国もそうですが、日本のゴミも各国の海に流れ着いています。ゴミを出せば、この海を回り回っていくのです。だとすれば、まず私たちがすべきなのは、自分の近くにある海をきれいにすることではないでしょうか。それが、この「ONE OCEAN」を美しくすることに繋がるのです。

このことは、環境問題を考える上で、一つのキーワードになるのではないかと、私は考えています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)