大学生・大学院生を対象に環境分野のCSOで8ヶ月間のインターンシップを経験していただく「損保ジャパンCSOラーニング制度」が開始から10年を経過しました。これを記念し、またこれからもこの制度が発展していくことを願い、「10周年記念シンポジウム」を開催いたしました。

10周年記念誌をご希望される方は事務局より冊子をお送りさせていただきます。ご希望の方は必要事項(お名前、送付先郵便番号、住所、電話番号)をご記入の上事務局メールアドレスまでご連絡下さい。*原則的にお1人1冊までとさせていただきます。
事務局Eメールアドレス:office@sjef.org

開会挨拶

財団法人損保ジャパン環境財団 理事長佐藤正敏

財団法人損保ジャパン環境財団 理事長 佐藤正敏 損保ジャパン環境財団は、1999年、地球環境に資する活動をするということでスタートし、環境教育、人材育成、環境に資する具体的な諸々の活動、地球環境問題に対する研究の助成などを手掛け、特に、教育・人材育成については、「木を植える人を育てる」という理念の下にやって参りました。

 この「損保ジャパンCSOラーニング制度」は2000年からスタートしました。それぞれのCSOの方々とパートナーシップを作り、学生の皆さんにはその活動を体験していただき、また市民団体の皆さんには学生さんたちのエネルギーを活用していただくことでWIN-WINの関係を築いてきたと思っております。この10年間でCSOラーニング制度の卒業生は527名となり、同窓会も発足し、卒業生の皆さんは社会のさまざまな分野で活躍しています。この制度によって育まれてきた皆さんの知見が、今後の社会に広がっていくことを期待しています。

財団法人損保ジャパン環境財団 理事長 佐藤正敏 地球環境問題は、この10年間で新興国の産業化が進み、それらの国の人々の生活向上に伴って起こる地球環境の破壊に対し、どういうバランスをとっていくかが大きな課題になっています。政府・行政、企業、市民団体の皆さん、社会のあらゆる方々が問題意識を持って取組んでいますが、まずはひとりひとりが自分の意識を高めて、それを日々の生活の行動に、或いは、企業や市民団体の皆さんは社会的活動に生かしていただくべく立ち向かっていかなければなりません。

ぜひ今日の記念講演、パネルディスカッションなどを通して、今の地球の危機に対して我々はどうしたらいいのかを語り合い、明日から少しでもそれを実践する機会となるように繋げていっていただきたいと思っています。

記念講演 「インターンシップの価値と可能性を確認する」

I IHOE「人と組織と地球のための国際研究所」代表者 川北秀人氏

川北秀人氏 インターンシップとは、目先で使える人材を育てる仕組みではなく、5年後10年後に社会を支えてくれる人材に、必要な体験や価値観を巡り会わせていくものです。これからの日本は、例えば少子高齢化の問題に目を向けると、1990年には1人の高齢者を5.5人の若者が支える社会だったものが、2020年には2人の若者で支えなければならなくなります。また先般報じられたように、我が国はGNPで世界第2位から第3位に転落しました。昭和と平成、20世紀と21世紀は違うということを、私は企業の経営者や行政の人々によく話すのですが、インターンシップは、今までの延長線上の社会で働くのではなく、このように変質していく社会の中で今までとは違う働き方や仕事の作り方をして貰わなければならない若者達にとって重要な機会なのです。特に環境問題に取り組んでいる団体は、目先の問題というよりは、少し長い目で見た社会への取組をしているところが多いので、その長期的な価値観に慣れたり、その中で活動するということに大変重要な意義があるのです。

川北秀人氏 私が考えるインターンとは、「受け入れ先が示す課題の解決や理想の実現に、期間限定の業務を通じて取組む組織外の人」のことです。そこで大切なのは、自分が挑む課題や理想が何なのかを団体と若者が共有していること、そしてもう一つは、若者が、経営者や団体運営者と同じ視点を持ちつつ、組織内に染まらない立場から、組織内ばかりでなく外の資源も活用して取組むことです。つまり、彼らが擬似的に経営者の視点を持ち、かつ組織を運営するかの如く機会を与えられることがインターンの醍醐味です。団体として自分達が取組んでいる課題や理想に対して、今までとは違うアプローチでやってみようという彼らのチャレンジをその団体にとってチャンスにしていただきたいし、若者にとっても言われたことだけをやるだけではなく、今まで出来ていなかったことをやれる状態にまで持っていこうとチャレンジすることが、意義あるインターンシップにするための最大のポイントです。ここがボランティアやアルバイトとは決定的に違うのです。ですから、インターンシップが本来の可能性を発揮するために受け入れ団体の皆さんにお願いしたいのは、団体が取り組んでいる課題や理想を抽象的に説明するのではなく、「この状態にまで持って行きたい」ということをクリアに示すこと、そして、そのためにどこまでやっていいよという「権限」、どういうものがあるよという「資源」をキチンと伝えることです。さらに、今日どういうことができたのか、明日どこまでできないといけないのかをその人任せにするのではなく、きちんと確認するために頻繁なフィードバックをすることも重要です。上手くいくプロジェクトのポイントは、目標が細かいことです。何年後かにこうなるために、その通過点として今年どこまで、それを細分化した結果、今日はどこまでできていればいいかが明確になっているプロジェクトは大体上手くいくのです。明日どうにかなるとか、そのうち慣れるではなく、できれば毎日どこまでできたかを終礼などで確認することは欠かさずやっていいただきたいと思います。また経営層の人々は、このインターンでどんなことを実験したいのか、また明らかにしたいのかを、経営側の意志としてスタッフやインターンに伝えることも大切です。さらに今後は、インターンの可能性を引き出し、最善の成果を導くようフォローする「コーディネーター」の存在も重要になってくると思われます。これは、インターンシップの仕組みがデザインされた通りに機能しているかをチェックする役割です。内部の人間であっても構いませんが、それが外部であると望ましいでしょう。例えば、インターンの受け入れ団体同士が、相互にその役割を担うということでも成立するのではないでしょうか。

川北秀人氏 では、企業がインターンシップ制度を継続的に支援することはなぜ重要なのでしょう。若者にとっては、社会の課題や理想に挑む活動の現場に携わり、自ら業務を組立てる経験を得られる機会だからです。実際に就職すると教わることがたくさんあり過ぎて、自分で仕事を組立てることはなかなかできません。しかしインターンでは、課題が明確であれば、達成したという手応えも得られるのです。また市民団体にとっては、こうした企業の支援を受けていることで、自分達がボランティアやインターンを募集する時の信用が得やすくなりますし、経済的な負担も下がり、かつ、継続的に取り組むことで改善策を積上げていくことができるようになります。そして企業にとっては、単なる資金助成などに比べると、少ない資金でより効果的な貢献ができるからです。インターン制度では、若者が各団体の現場に入っていくことを支援し、彼らの働きを通じて具体的に見える形で団体の活動を促進するという、テコの原理がしっかり見えるものなのです。

川北秀人氏 さらに、まだこんな可能性もあるはず!という話をさせていただくと、若者の皆さんは、これを自分だけの体験に留めず、次の世代に共有することをやっていただきたいと思います。私の団体でもインターンを受け入れていた時期がありますが、その時に必ずお願いしていたのは、「次のインターンがより良く仕事ができるための準備をするところまでが君たちの仕事だ」ということでした。申し送り書の作成、次回の募集支援、困っている人へのフォローなどが考えられますが、若者の皆さんが得た経験をどう次の人が使える状態にするのか、これが「木」が「森」になっていけるかどうかのポイントなのです。また市民団体の方々にお願いしたいのは、運営の改善を継続していただきたいということと、他の団体と一緒に生かし合える関係性を作っていくことです。場合によっては、お互いの現場を見せ合うこともいいと思います。よその現場を知っているからこそ、周囲に対して説得力も影響力も持てるのです。そして企業側にお願いしたいのは、若者の力を最も有効に活用すべき分野・団体に対象拡大していく上で、中期的に同じ団体にということも大事ですが、日本の環境問題を全般的に見た時に、どういうテーマ、どういったタイプの活動に日本は力をつけていかなければいけないのかに目を向けていただきたいと思います。

 インターンシップは、若者にとっても、団体にとっても、応援してくださっている企業にとっても可能性豊かなものです。若い苗木を育てる重要なものでもあり、育ちつつある各団体という森を次の世代と一緒になって守っていくような存在でもあります。その力を日本の環境活動を豊かにするために、今後も更に生かしていただけばと思います。

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パネルディスカッション「CSOラーニンク制度の過去・現在・未来」

酒井酒井最初に、それぞれのパネリストの皆さんから、簡単にCSOラーニング制度との関わりや団体の紹介をしていただきたいと思います。

加雅屋加雅屋私は、2000年、大学2年生の時に損保ジャパンのインターン制度に参加させていただいた第一期生です。インドやインドネシアで給水・植林事業に取組むNPO「地球の友と歩む会」に派遣していただき、1年近く、WEBの更新やメルマガの配信などの事務作業をしていました。それらの体験によって、働くことに対する意識が大きく変わったのを覚えています。当時は、大学を卒業したらJICAや国連職員がかっこいいと憧れていたのですが、実際にNPOで働くうちに、何かいいアイデアを考えたり、それが褒められたりするととても嬉しいことに気づいたのです。そこで、例えばとても価値ある活動をしているNPOがいた時に、それをどう伝えてみんなを巻き込んでいくかに知恵を絞ることが、自分のやりたいことではないかと考え、広告会社に就職をして毎日頑張っているところです。その仕事の経験を通して、資金・人材・意思疎通などが不足しているNPOに対してコンサルティングをはじめとした活動をするNPOを立ち上げました。

伊藤伊藤インターンを経験すると、今までとは異なった世界、知らされてなかった世の中の仕組みや価値観、知識を得るなど、いろいろなことを学べます。そうすると、自分の人生やその生き方、働き方などを凄く深く考えるようになると思います。しかし実はその結果、就職活動の時に悩んだり、休学する子も私の周りにいましたし、就職した後も悩んでいる人が多いと感じています。実際OB・OG仲間の中にも、職場の厳しいノルマや売上げ至上主義に苦しんだり、仕事内容は納得していても収入が少ないなどの悩みを持っている人がいます。私自身が現在の仕事を通して見えてきたことは、人材が種だとすると種が育つための土が必要であり、良い種があっても、良い土がないと種は育つことができないということです。この1年、いろいろなOB・OGの皆さんと話をしていて同じようなギャップや悩みを感じている人は多く、人材育成とは、人づくりだけでは成り立たず、彼らを支えていく新しい仕組み=土づくりが必要なんだと、今、強く感じています。

加藤加藤「環境文明21」は、日本を持続可能な環境文明社会へ変革するよう促すことをミッションとした、政策提言型NPOです。これまで損保ジャパンCSOラーニング制度によって、8年間に亘って14名のインターンを受け入れてきました。その結果、私どもの団体に与えた効果としては、中高年が多い集団の中で、若者らしい活力を会に与えてくれている点が挙げられます。一方、インターン生にとっては、私たちの議論に触れることが価値ある成長の場となり、社会人になってもその経験を忘れずにいてくれているようです。CSOと学生の縁結び制度ともいえるこの仕組みは、自立した市民の育成とNPOの発展に寄与し、企業が社会に対してなしうる最も質の良い貢献といえるのではないでしょうか。

吉野吉野私たち「共存の森ネットワーク」は、「森の聞き書き甲子園」という事業から生まれたNPOです。これは、2002年から毎年高校生100人を募集し、山で暮らす方々のところに派遣し、その方達の人生や人となりを聞き書きで記していこうという活動です。主に70〜80代という方に話を伺うので、高度経済成長以前に日本人がどういう考え方で暮らしてきたのかに高校生たちが触れる機会となっています。今まで900名の学生が参加したわけですが、彼らが自分たち自身でこの活動を繋いでいきたい、支えていきたい、ただ聞いただけで終わりにしたくないという活動が生まれたことから、「共存の森ネットワーク」が誕生しました。つまり、私たちは学生と活動している一方でインターン生も受け入れているわけですが、自然があって若者がいれば何かができるわけではありません。脇に寄り添う人が必要なのです。それが親や学校の先生ではなく、企業やCSOがその役割を担っているのはなぜでしょうか。それは、この活動が、彼らが社会に出た時に必要な価値観・物差しを作り、「自立」と「協働」を学ぶ場であるからです。私たちは社会人としてちょっと先輩であるので、そのサポートができる立場にいるのです。

宮城宮城私は、今の日本でリーダーが育つ場所がどこにあるのかを問題意識として持っており、その回答の一つとして、新しくチャレンジする起業家の支援や長期実践型インターンシップという活動に取り組んで参りました。インターンシップに関して言えば、これまでに2200名が参加し、そこから150名以上のOBが起業しました。この「今の日本でリーダーが育つ場所はどこか?」という問いに対して、私は「リーダーは現場で育つ」と考えています。特に私たちが大切にしているのは、「変革の現場で人を育てる」ということです。新しいチャレンジをしている現場に若者を参画させていくとも言い換えられるのですが、変革の現場でこそ若者が育つのと同時に、若者が育つ現場では変革が進む、その循環が大切であることを最近強く感じています。またこれから社会人を目指す皆さんには、先程加雅屋さんの話にもありましたが、「名刺を2枚持つ」という視点も重要です。会社に勤めながらもCSOの現場に入っていく、インターンシップと同じような経験を自分の中に持つことによって、本業でも自ら仕事を作り出せる社会人になっていけるのではないでしょうか。

酒井酒井ありがとうございました。早速吉野さんにお伺いしたいのですが、CSOラーニングのような環境分野の人材育成に企業やNPOなどいろいろな立場の方々が関わっているわけですが、この活動から生まれてくる価値や意義についてどうお感じですか?

吉野吉野たまたま去年から「森の聞き書き甲子園」で、漁村で生きている方への聞き書きも始めたのですが、そこで知った三重県・答志島(とうしじま)のお話をしたいと思います。この島には、それぞれが夫婦単位、親子単位で操業している小さな漁村があるのですが、そこに「寝屋子(ねやこ)」という制度があります。これは、子どもが中学を卒業すると、漁村の中のよその家庭に預けるというものです。つまり直接の親でない人の下で共同生活を続け、地域で若者を育てていくという仕組みです。なぜこれが必要とされているのかというと、そもそも子どもは親から教わる物事には反発したくなるものですし、預けた先の親代わりの人物は、半分他人だからこそ逆に厳しくなれたりするからです。社会で生きていくことや働くこととは何なのか、地域で生きていく時に何をやらなければいけなくて、何をやってはいけないのかは、実は親が教えることのようですけれども、親では教えきれない所がいろいろとあります。また、好きで結婚したい人が出てきた時、親には言えないけれど、おじさんに相談に乗ってもらおうとか、こういうことの中で地域社会がまとまり、絆ができていくというのです。この事例と同様に、親や学校では教えられることに限りがあり、生きていくこと、働くことはどういうことなのかを教えられるのは、実は企業やNPOかも知れないということを私は感じています。

酒井加藤さんは、この価値や意義について、どうお考えですか?

加藤加藤先程も申し上げた通り、私たち中高年を中心とした地味な活動に、若い人がやってきてくれるのは、とても嬉しいことです。しかし、私たちがやっている、憲法に環境条項を盛り込もうというような類いの議論に、若い人達がいきなり貢献するというのは無理なことです。しかし、それに刺激を受けてくれた若者たちと、今でも連絡を取り合える関係でいられるということは、大海の水も一滴からの如く、いずれ世の中を変える原動力としての期待を抱かずにはいられません。就職後に私たちの活動に参加してくれているインターンの卒業生もおりまして、先程、宮城さんの「2枚目の名刺」の話がありましたが、100%の会社人間にならず、少なくとも10%は別の価値観を持ちながら働くことは、本人にとってはもちろん、会社にとっても、激変する社会の中で新しい方向へ会社を引っ張っていく牽引力となるわけですから、いいことなのではないでしょうか。

酒井では、インターンに参加した2人に聞いてみたいのですが、このCSOラーニング制度に参加した人材の「強み」について、どう考えていますか?

加雅屋加雅屋このインターンシップに参加している学生はみんな、お金ではないものに楽しみを感じ、理想を語れるタイプの人たちであるように感じていて、そこが強みなのかなと思います。あと、自分のNPOで同窓生と仕事をしていると、それぞれが本業の中で培った仕事のスタイルが見えてきて、職種は違っても結局地道に頑張っていくしかないことが確認できます。天国のような仕事はどこにもなく、結局自分自身が、本業を生業にして頑張るしかないことが分かったように思えます。

伊藤伊藤「自分自身が生きているというリアリティーを持てるようになったこと」が、強みだと思います。大学に行っているだけだったら、メディアや周りの大人達から与えられた価値観だけを疑わずに受け入れて進んでいたと思うのですが、インターンをしたことでいろいろな社会の問題に意識を向けている人達と会うことができ、「それは本当にいいことなの?」「それは本当はどういうことなの?」という疑問を持つことを学ぶことができました。それまではフンフンと話を聞くだけで、生きているという実感が正直無かったんですが、ちゃんと考えていかないと自分たちの将来は危ういんじゃないかと物事を捉えることができるようになりました。

酒井伊藤さんはNPOに就職されましたが、実際NPOへの就職は厳しいという現実もあります。アメリカの現状に詳しい加藤さん、アメリカの現状はいかがでしょうか?

加藤アメリカで今年発表された主要大学345校の就職希望ランキングで、文系学生の第1位は、グーグルやアップルを抜いて「TFA=Teach For America」というNPOでした。このNPOは、公教育が財政難のために荒廃しているアメリカで、企業がお金を出して講師を派遣し教育を支えようという活動をしている団体です。ここで活躍した若者については企業も注目していて、後に優秀な人材として引き抜いていくという循環も生まれており、学生たちからの人気も高くなっているようです。日本でもこういった状況、つまり学生たちが、企業に就職しようか、あるいは霞ヶ関か、それともNPOか…という時代にならないと日本は良くならないのではないでしょうか。

酒井そういった部分の日本のインフラ作りについて、宮城さんはどのような想いを持っていらっしゃいますか?

宮城宮城現段階ではインフラは全く整備されていないですよね。人づくりにしても、お金づくりにしても、各団体がゲリラ戦で戦っていらっしゃるのではないでしょうか。「人」と「仕組み」はどちらが先かというのは、ニワトリとタマゴのような話ですが、私自身は自分の役割として人づくりを先と考えてやっています。例えば、この素晴らしいインターンシップの仕組みも、本音を言えば全員に受けて欲しいわけですが、そうなってくると教育機関のコミットメントが必要になってくるわけです。全ての学生が充実したインターンシップに参加するというのは、大学側での中退問題や授業料収入といった実情と相容れない側面もあるのです。大学としても、学ぶ意欲をどう育むかという部分をもっと真剣に考えるべき時期に来ているはずなのですが、まだまだ対応が遅れており、私たちとしても真剣に対応してくれる大学を増やすべく努力している段階です。

酒井記念講演をしていただいた川北さんは、ここまでのお話を聞いていかがですか?

川北川北加藤さんが最初にしてくれた話は深刻だなぁと感じています。今、行政がNPO助成をする場合、活動に対しては助成するんですが、基盤強化には殆どお金を出していないんですね。ここをそろそろ変えたいですよね。また一般的に日本の行政は、一年間で事業を見ようとするんです。企業の方がまだこういう制度を何年も続けようという気持ちを持って下さっていて、単年度審査であってもいいものは続けさせようとしてくれます。ところが、行政の場合は何故か分かりませんが、良くても3年で切りますよね。これが逆に言うと、生態系を殺しているんです。この点について、パネリストの皆さんはどうお感じになりますか?

加藤おっしゃる通り基盤づくりについては、企業だけでなく、むしろ政府が公的資金を出すべきですね。例えば、ハイブリッド車やソーラー発電についての税制優遇があるのに、なぜNPOやCSOを支える若い人々の人件費や研修費が出ないのか、そういうことを損保ジャパンさんのような企業頼りにせずに考えて貰いたいですね。

吉野吉野「森の聞き書き甲子園」の場合、初年度は国のお金で行ったのですが、現在は13企業の支援金で運営しています。しかし、それを作るために年に3回程度、全企業、林野庁、水産庁、文部科学省の担当者40名程度を集めて会議をやり、高校生を育てる意義についての合意形成を図って続けているものです。そして、活動費は出るけれども、それをコントロールする事務局人件費は殆ど出ず、そこに携わる僅か数人のスタッフは、土日は現場に出て、平日は休みが取れないという状況が現実です。そんな中、この損保ジャパンさん一社で支えているこの制度は、NPOの横の連携もできていて、500人以上の卒業生がいるわけですが、ここで育てられる若者は企業にとっても社会にとっても重要なステークホルダーだという意識の中で、国がどう関わってくれるのだろうかという想いはあります。

宮城私は、中間支援組織が正しく力をつけて政策決定プロセスの懐に入り込んでいく必要があると考えています。今、新たな政策の中で相当な予算が立てられようとしている現実があるのですが、それが少なからずばらまき的になってしまう、ここを上手く投資に変えられるような持って行き方が、我々の踏ん張りどころかなと思っています。

酒井では最後に、CSOラーニング制度の未来に期待を込めて一言、フリップボードにコメントを書いていただけますでしょうか。

加藤加藤『日本再生のカギ→充実を願う』です。
この制度は、日本のCSO・NPOを強くする大事なものだと思います。というのは、日本の再生を誰が担うのかというと、やはりCSOやNPOに期待するところが大きいと思っているからです。ぜひ今後、この制度をさらに充実・拡大していただけることを願っています。

吉野『志』という言葉を書かせていただきました。
吉野一つはインターンの皆さんへの意味ですが、やはりインターンの期間は本当に貴重で、初めて社会に触れて自分の価値観や物差しを持ち得るものだと思うので、ぜひ大切にしていただきたいということ。そして損保ジャパン環境財団さんへですが、「木を植える人を育てる」という理念は、改めて考えてみると凄いことで、要するに、ただ考えたり知識があるという人ではなく、具体的に行動する人を育てるということなんですね。実はそれが非常に高い志だと思います。そしてその育てた人が500人を越え、そこから新しい活動が生まれたりしているのですが、こうなった以上は、途中で親が育児放棄をするように「辞めます」とは言えないわけで、私たちCSOもどういう人を育てるのかを一緒になって話し合いをしていきたいと思います。

宮城宮城『他社と一緒に面展開を』です。
今回参加して、この制度の素晴らしさを改めて実感しましたが、他の企業もこの良さを分かってくれるのではないかと私は思います。社会のあり方が大きく変わっている今の時代こそ、他にもやりたいという企業が出てくるのではないでしょうか。

加雅屋加雅屋僕にとってこの制度は、『腐葉土』だったかなと思っています。また、『こやし』にもなりましたし、小さい木が地面の中で『根っこ』で繋がっている感じでもありました。担当者の方がとても温かい方ばかりで、何かと言うと連絡したくなるような感じで、それが制度というより人で支えられている感じがして、この温かさをこれからも継続してほしいと思います。

伊藤『変』です。
伊藤先程の宮城さんの変革の話がとても印象に残っていることと、この10年、インターン制度もいろいろと変化があったと思うのですが、これから先も変革し続けていく制度であって欲しいですし、自分も含めたOB・OGの皆さんに申し上げたいのは、制度が変わっていたとしても変わらず関わり続けて、自分がOB・OGだということを忘れずに、いっぱい投資をしていただいたのですから、キチンとそういうことを心に留めて社会のために関わっていけたらいいなぁという想いを込めて、この字にしました。

酒井皆さま、本日は貴重なご意見をありがとうございました。これからも環境分野の人材育成に向けて、お互いに協力していきましょう。

(終わり)

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン

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