講座レポート



パート2・第3回



日本発「国連持続可能な開発のための教育の10年」
とは何か



2006年10月31日


阿部 治氏
【立教大学社会学部教授・国連持続可能な開発のための教育の10年推進会議代表理事】


今、私達は持続可能な開発をベースにした社会を、待ったなしで構築しなければならないことが世界の共通認識となっています。そのために最も重要で最も難しいことは、私達の価値観を変えていくことです。

現在この地球上には、様々な課題が山積みになっています。国際的課題としては、環境、資源エネルギー、人口、食料、貧困、人権、平和…その他にもたくさんありますが、かつてこれらは、別々の問題として語られるものでした。しかし現代では、互いに深く関連しているという考え方の下にあります。また国内的課題は、少子高齢化、経済格差拡大、低食料自給率、受験戦争をはじめ挙げればキリがありません。世界は今、様々な問題が複雑に絡み合って事態が悪化しており、このままでは「わたし」も「あなた」も「社会」も持続不可能な状態なのです。

持続可能な開発とは、将来の世代のニーズを満たしつつ、現在の世代のニーズも満足させるような開発のことを言います。ニーズとは「欲求」ではなく「必要物」です。「欲求」は無限であり、生活の為に「必要な物」は無限ではありません。こうした意識改革を実行し、持続可能な社会を具体化していくために重要なことが、環境教育や持続可能な開発のための教育(ESD=Education for Sustainable Development)なのです。

これは一体何かというと、「関係性」の学習と捉える事ができます。環境問題は、自然環境だけでなく政治・経済・文化など人間に関わるあらゆる問題が絡み合っていて、こうした繋がり…つまり「人と人」、「人と社会」、「人と自然」などを考える学習として深化させるものなのです。現在の関係性では、自分も他人も持続できないとすれば、持続可能な関係とはどのような繋がりなのかを「想像」し、想像した新たな繋がりを「創造」することが、持続可能な社会のために必要で、ESDが目指すこのような教育に変えていくためには、まだまだ社会構造を変えなければいけない状況です。

現在の日本のような先進国の生活を、全ての地球市民が送ったとすると、地球がもう2個必要だと言われています。つまり持続不可能性を助長しているのが、日本のように教育が行き渡った先進国であるとしたら、日本を含む先進国こそが、「持続可能性」を全ての教育に組込む再構成が必要なのです。

ユネスコは、去年「国連持続可能な開発のための教育の10年」の国際実施計画を発表し、これを受けて日本政府は、今年3月に国内実施計画を発表しました。

その中で、ESDは「私達一人一人が、世界の人々や将来世代、また環境との関係性の中で生きている事を認識し、行動を変革することが必要であり、そのための教育」と定義され、基本方針として(1)2014年までに一人一人各主体が、持続可能な社会作りに参画するようになること (2)環境保全を中心とした課題を入り口に、環境、経済、社会の総合的な発展について取組む …などが挙げられ、その内容は高く評価できるものです。実効性にいくつかの問題点もありますが、それらを克服しながら計画を実行していけば、持続可能な社会の実現にこの教育が大きく貢献するのではないかと期待しています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)