講座レポート



パート1・第3回



ロハスから考えるライフスタイル



2006年08月29日


小黒 一三氏 【月刊「ソトコト」編集長】


「ソトコト」は、「地球環境を意識しながら楽しい生活を送ろう。未来は明るい。」…そんなつもりで作っている雑誌です。かつて私はマガジンハウスで「BRUTUS」や「クロワッサン」という雑誌の編集に携わっていたのですが、その後ケニアでホテル経営をしました。それが軌道に乗った3年後に東京へ戻ってきた時、当時マスメディアが環境一色だった時代にも拘らず、一般の人向けのそういう雑誌が無かったため「ソトコト」を立ち上げました。最初は僅か2000部しか売れなかったのですが、雑誌とは大量広告を打てばハイスピードで消費者が反応するのではなく、何かを感じてくれた人から人へと広がっていくものなので、そういう意味では環境というテーマに合った媒体だと思います。その甲斐あって7年が経った今では8〜10万部を出版するようになっています。

この「ソトコト」で3年前から提唱している言葉が「ロハス」。これは、アメリカで初代プリウスを買った知識層をアメリカのポール・レイという社会学者が「Cultural Creatives」と呼び、そのことを書いた著書「The Cultural Creatives」の中で使ったもので、「Lifestyle Of Health And Sustainability」の略です。私は、地球の幸せを横軸・自分の幸せを縦軸にした図を書いた時に、その両方が大切だと感じる人々がロハス層だと考えているのですが、この中で最も大事なのは「Sustainability=持続可能性」です。つまり、それが気持ち良くてやっている人はいいんですが、中には我慢してやらなければいけない人もいて、それでは続けていくことはできません。そうならないために、自分が納得できる範囲でやればいいのではないかという概念が含まれていることが、ロハスが受入れられ易かった理由なのでしょう。

ところで「ロハス」という言葉がどれ位普及しているかを調べる為に、Googleでの「LOHAS(もしくはロハス)」の国別検索回数を調査してみたところ、日本が圧倒的な多さだったことが分かりました。我が国でこういった新しい市民が出てきていた一方、彼らを名付ける言葉が無かったために私が「ロハス」と名付け、それが特に女性を中心に支持されたようです。そしてそんな今の時代はプリウスに象徴されるのかもしれません。この車は電気でもガソリンでも走るハイブリッド車ですが、将来は水素エンジンかディーゼルエンジンか、或いは全く新しいエンジンの車に切り替わっているかもしれないものです。これと同様に、現代は環境問題の答えを模索している時代なのでしょう。

最近私は、ロハスに続く新しい言葉を何か考えているのではないかと多くの人から聞かれるのですが、今は「懐かしい未来」という言葉が気になっています。多分私達は、ちょうどプールで泳ぐ水泳選手のように1998年頃に折り返していて、昨今「ALWAYS 三丁目の夕日」のような映画がヒットし、若者達が昭和30年代のものを新鮮に感じるのは、今ちょうど踏みとどまって考える時期にきているからなのではないでしょうか。

こういう話をすると「人間は戦争のような過ちを何度も繰り返すことになるではないか」とニヒルに考える人もいますが、恐らくそういう人は前進だけを信じていて、「折り返す」ということを知らないのではないかと思います。ターンしたと思えば、私達は新しい出発点に立つ事ができ、そこから螺旋階段のように新しい文化を創っていくのです。その目安として車を見ていればいいのではないでしょうか。ハイブリッドが進化し更なる新しい車が出てきた時に、本当の21世紀が始まるのだと私は楽しみにしています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)