講座レポート



パート1・第1回



どこまでが自分の「食環境」か



2006年08月01日


影山 なお子氏 【パルマローザ 主宰/食コーチ/管理栄養士】


今日は「どこまでが自分の食環境か」というテーマで、お話させていただきますが、最初にこの話を申し上げる栄養士としての私の現在の仕事について少しお話させていただきます。

栄養士というのは、肥満や生活習慣病をお持ちの方の食生活の改善を目的として、おもにカウンセリングや料理教室などをおこなったりしています。しかし一般の栄養指導というのは、「指導」という言葉からもおわかりのように、「塩分を控えなさい」とか、「脂肪分を減らしなさい」とか、とかく上からものを言う傾向があります。こういう傾向に対して前職業である航空会社の客室乗務員の経験からすると、患者さんに対するサービス業という意識よりも、教育や指導といった面がとても気になりました。

そこで私は、「食コーチング(R)」という新しいサポートスキルを開発することになりました。一言でいえば、それぞれの患者さん、健康な人も含めたクライアントの自発性を促す問いかけコミュニケーションによってモチベーションを高め、食事や健康の面からライフスタイルや生きがい作りををお手伝いさせていただくというものです。これから申し上げる食環境とは「その人の健康を支えるほとんどの自発的行動」だと私は考えています。

さて、もう一度そこで食環境について考えてみると、日本はいまや食料を世界から輸入しているので地球全体が日本人の食環境になると思います。しかし、栄養士の私には守備範囲が広いので、もう少し食卓まわりの話に近づけてポイントになる点をお話し申し上げたいと思います。

最初に、栄養・健康の面から見た広い意味での食環境についてお話しさせていただきます。日本人の食環境については「欧米化が進んでいる」とよく言われます。果たしてそうなのでしょうか。「食の欧米化」の定義は、栄養学にも医学にもありません。一般には「食生活の欧米化」と言う場合、私達は肉や脂分の多い食事、糖分の多い食事などを想像しますね。それを過去20年間の統計で確かめてみましょう。

日本人全体のこれらの平均摂取量は、横ばいか、むしろ減少傾向にあります。欧米化そのものが、良くない影響を与えているとは、数字は必ずしも物語っていません。次に、「また生活習慣病が増えている」とも言われることが多いのですが、データをご覧になっていただいたように、決して増えてはいません。長寿になれば、なるほど何らかのご病気を持つ方は増えてくるのは当然でしょう。必要以上に怖がらせることは、「狼が来た」と同じで、その方の健康に対するモチベーションまでつんでしまうことにもなりかねません。大事なのは、食の欧米化というあいまいな外部環境に振り回されることよりも、食事の方針を持たないとか、不節制とかの、自分自身の内部環境の見直しではないでしょうか。

次に数値から見た食環境および体内環境を見てみましょう。BMIもメタボリックシンドロームも、治療から予防へという時代の流れとマッチしています。昔は、「ベルトの穴が1つゆるむと、寿命が1年縮む」と言われてきたことに、科学的な根拠を数字で示したものです。ベルトの穴がきつくなっても病院に行かなかった方でも、基準が示され、医師が「あなたは病気ですよ」と病名をつけることで、みなさん病院に行かれるでしょう。ですから、メタボリックシンドロームという考え方は、新しい発想ではなく、実は昔から言われてきたことの裏づけなのだと私は理解しています。食環境全体を考える時に、データでものを見ることは大変重要なことです。

次に、より個人の食環境について目を向けてみましょう。「食育」ということが盛んに言われていますが、食育とは一体何でしょう。実は栄養士ですらどうすればいいのか分からない人も多く、一般の方でも「うちは無農薬の食品を食べているから食育をしています」というような考えをお持ちの方がいらっしゃいます。しかし食育とは、親子・夫婦・子供同士・ご近所・学校・職場など、さまざまなシーンにおいてさまざまなバリエーションで実践されるもので、いわば「みんなが食事力をつけよう」という理念や思想、そして国民運動です。

では、食事力を強化するために私達はどのようなアクションを起こすべきなのでしょうか。その例として5つのポイントを紹介します。

(1)定刻に食事をとる習慣をつける
1日3回の食事を規則正しくいただくことは栄養補給という意味だけではなく、安らぎやくつろぎの補給にもなります。ですから、昼食は職場のパソコンの前でというようでは、いくら栄養補給が充分でもそれを、健康であるとはいえないですよね。

(2)1日に何をどれだけ食べるかという基準を持つ
「玄米がいい」「青魚はからだに良い」と話す方は多いのですが、「どれ位の量を食べていますか」と尋ねると答えられないケースが少なくありません。1日に何をどれだけ食べるかという「食のものさし」は昭和初期から日本に存在します。これを理由にしない手はありません。目安があるから、「多い」「少ない」がわかるわけです。また、この食事のものさしは、バランスという質だけではなく、どのくらいかという量まで書かれたものが望ましいでしょう。

(3)定刻にトイレに行く習慣をもつ
できれば、自宅で余裕を持ってトイレに行くような生活習慣が望ましいでしょう。通勤途中の駅や職場では、ついせわしくなってしまいます。

(4)体重を測る習慣をつける。

(5)運動の習慣をつける。

食事力を高めるためには、これだけの生活に対する視野が必要です。言い換えれば、「食環境」とは、ここまでの広がりを持つものだと言うことができるのではないでしょうか。そして、これらのことを「いつからやろう」ではなく、どうか今日からから実践することを心掛けてみてください。


構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)