講師紹介

小宮山  宏氏

昭和19年生まれ。
東京大学工学部卒。同大学院博士課程修了。
現在、東京大学大学院教授。
産業技術審議会環境評価小委員会委員長。




1.地球の温度

惑星の温度を決めるメカニズム
惑星の温度は、太陽に暖められることで温度が上がるため、太陽に最も近い位置にある水星が一番温度が高い。
したがって、太陽から離れるに従い温度は低くなっていく。
金星の平均温度は400℃位で、地球は約15℃、火星は−50℃である。
もし、太陽にまったく暖められないとすると、宇宙の温度のように、2ケルビン(K)とか3Kという絶対温度(−270℃)になってしまう。
太陽の表面温度は6000℃近くある。
なぜ太陽に暖められた惑星が、そんなに暖かくならないかというと、昼間に温度が上がっても、太陽が沈むと温度が下がるという「冷えるメカニズム」があるからである。

「冷える」ということは、宇宙に赤外線を放射するということである。
熱の移動には伝導、滞留、放射というメカニズムがある。
伝導、滞留は物がないと伝わらない。
地球は球体である。宇宙という真空の中に浮いている地球という球を冷やすメカニズムは放射しかない。
また、高い温度のものからはたくさん輻射熱がでて、低い温度のものからは少ししかでない。
太陽から受けたエネルギーをバランスよく宇宙に逃がすことで、惑星の温度は決まってくる。
すなわち、「熱をたくさん受ける水星は温度が高い」という極めて単純なメカニズムなのである。

地球は1uで1360Wの熱を受けている。
もし100パーセント熱交換できる太陽電池があれば1uで1kWできる。
この地球を暖めている熱は、季節や地軸などの条件を除いて、以下の数式で算出できる。


地球の断面積×1360
J・πR=σT・4πR
T=278K
(平均気温5℃ということである)

しかし、このメカニズムを狂わせるものが2つある。

◆「反射の作用」
雲などに反射されてしまうため、1360Wの熱のすべては入ってこない。
地球の場合は、約30%くらい反射されている。
本当だと地球の温度は−20℃位なのである。

◆「温室効果」
逃げようとする水やCO2は赤外線を吸収する。
吸収した赤外線の半分を外に吐き、残りを内側に吐く。
このうち内側に吐く分が「温室効果」になる。
これが1360Wに加わって、地球の平均気温は15℃位になるのである。
しかし、この「温室効果」というのは極めて不確実性が高い。
ここで注意すべきなのは、確かな部分と不確かな部分を、きちんと把握しておかなくてはならないということである。
現在地球上に33℃の温室効果があるということは、物理的に確かな事実である。
そして、CO2の濃度が増えると、温室効果が大きくなるということも事実である。
だが、濃度が濃くなったとき、何度になるかということは、不確かである。
さらに、オホーツク海の温度が上がるのか、東京の温度が上がるのかというような話になってくると、その不確実性はますます高くなるのである。



2.CO2濃度

CO2濃度は、18世紀末の産業革命以後加速度的に増えている。
人口は、20世紀になって莫大に増加した。
CO2はどうして増えるのか。
それは人間が化石資源を燃やすからである。

植物は、光合成により、CO2を吸って酸素を吐き、炭水化物を生成して成長する。
秋になると土壌分解され、結局CO2として排出される。
植物は成長するだけCO2を吸って酸素を吐くのである。
人間が開発を進め乱伐などの行為を行う以前には、このようなシステムが働いて、1年たった頃に収支は必ず戻り、物質の出入りはゼロという平衡状態を保っていた。
ところが、人類は大量に化石資源を消費し続けて、その結果、大気中のCO2濃度の上昇を引き起こした。

現在の状況の中で、大気中のCO2濃度を安定化させたいならば、化石資源からではないエネルギーを利用するか(新エネルギー、省エネルギー)、陸上、海上双方のCO2を固定するしかない。



3.代替エネルギー

代替エネルギーには以下のような種類がある。

◆太陽
直接的には、光、熱。
間接的には、水力、波力、風力、温度差、濃度差…
◆核
◆地熱

このうち、核を利用する原子力はクリーンではあるが、安全性に対して不安がつきまとう。
また、太陽は安全である一方で、太陽電池を作るのにエネルギーがかかってしまう。
作るのにかかったエネルギーをどれだけの発電量で取り返せるか。
(エネルギーペイバックタイム)
いろいろ検討された結果、現在の技術では、3年で太陽電池を作るのに要したエネルギーが取り返せるという理論が成り立っている。
ただし、砂漠など広大な面積で作る場合には、コスト的にこの理論は難しくなる 。

現在の最先端の技術を駆使すれば、屋根に太陽電池パネルを設置する場合、エネルギーは2年位で取り戻せる。
その先20年使用すれば、18年分の電気はまる儲けになる、という考え方が成り立つ。
他にも水力、風力などの代替エネルギーの可能性があるが、これは地域によって蓄電量の差が大きい。
現在の状況では、これらのエネルギー総量は、現在使用されているエネルギー全体の10%も賄えてはいない。
しかし、もちろん使える分は使った方がいいわけで、将来的には、太陽なりバイオマスを利用すればよい。
それぞれの時間のスケールやポテンシャルに応じて、適切な開発をすればよいはずである。
いずれにしても、現在の化石資源を現在のエネルギー使用の密度で賄おうとするのは技術的に非常に難しいということである。

エネルギー技術の進歩がもっとも早かったのは原子力である。
開発当初は、夢のエネルギーともいわれていた。
現在は、世界のエネルギー供給量の5%を賄っている。
電力分野では10数%に及ぶ。日本での電力供給に占める割合は30数%。
ここまで利用されるようになるまでに40年近くかかっている。
インフラを含めた周辺技術を整えるためには、投資と時間がかかるのである。
この意味においては、バイオマスやその他のエネルギー技術が、十分に整備できるまでにはまだしばらくの時間が必要である。
そうなると、即効的に効果があって、地球環境を守るためにも意味あるエネルギーとは、「省エネルギー対策」ということになる。



4.省エネルギー

京都会議に対する答えは、(今の技術レベルでは)「省エネルギー対策」である。

省エネルギー
ガマン 効率化
家庭 暖房温度を下げる 断熱ハウス
産業 生産を減らす 原単位を減らす
電力 発電量を減らす 発電効率を上げる
自動車 乗らない 燃費を良くする

【日本で実践された省エネ努力】
1953年から1992年までの我が国のエネルギー消費と国民総生産(GNP)の伸びを比べてみた。
すると、1953年から1973年までは、エネルギー消費と国民総生産の伸びが一体となっていた。
経済成長率とエネルギー消費の成長率とが全く同じということである。
状況は、まさに現在のアジア諸国の現状と同じである。
そして、73年のオイルショック後の10年は、エネルギー消費は伸びていない。
当時の経済成長率は4%である。
驚くべきことに、この時期は経済成長を続けながら、エネルギー消費を減らしたということになる。
つまり、この構造を再び実践すれば、京都会議の目標は達成できるはずである。
それがなぜできないのか。
それは、産業界の努力が、73年からの10年の間で、ぎりぎりできるところまで絞りきったからである。
私はこのことを、「一度乾いた雑きんをまだ絞るというのかという産業界の悲鳴が聞こえる」と例えている。

京都会議で決まった削減目標のうち、日本に課せられた6%という数字は圧倒的にきつい数字である。
日本の6%とEU8%とを比べると、どれだけ日本がきついことか。
というのも、日本は産業界における省エネが進行しているので、ここから更に6%削減するのは実にシビアな課題だからである。



5.対策各論

◆発電
発電所では大きなロスがでている。
現在、最も発電効率がよくて、51%。
日本の平均効率は38.5%である。
この数字を分析をしてみよう。
熱が1億トンくらい入って効率が約40%ということは6000万トンが発電所のロスとなっていることになる。
ガスタービン等をうまく組み合わせれば、65%くらいまでに発電効率を上げることが可能なのではないか。

◆冷暖房
年間を通じてみると、日本の都市部では暖房需要よりも冷房需要のほうが大きい。
現在の冷房機器では消費した電力分だけ都市を暖めている。
この場合、理論上負荷ゼロとなるのは、家の断熱が完全でな場合であり、実際のエアコンではまだ理論上の10倍の電気を使っている。
人は、28度の部屋を冷やすのに、28度と同じ温度では我慢できない。
それよりも低い温度でないと快適と感じない。
この温度差を近づけるという省エネ対策は十分行えるはずである。

◆金属
金属はほとんどがリサイクル可能な物質である。
新たに生成して使うよりも、金属を社会に蓄積してそれをリサイクルする方が、少ないエネルギーで済む。
金属のリサイクルには不純物の問題などがあるが、今後、分別と技術の向上をうまく組み合わせれば解決可能なはずである。

◆鉱物
鉄は世界で年間8億トン生成されている。
鉄は、天然資源を酸化鉄から酸素を放して作られる。
エネルギー論でいうと、鉄鉱石より価値が高く、スクラップとして回収され再利用されている。
世界中で約20億t位蓄積されている。
新たに鉄鉱石を掘り出すよりも、鉄をスクラップして再資源として利用する。
アルミやコンクリートも同様に利用できる。

◆ごみ
ごみ問題として挙げられることは、@捨て場がない、Aメタンがでる、Bごみも資源の一つ等の指摘である。
ごみ問題は、社会システムをどのようにつくるかということの顕著な例である。
もはや、リサイクルは企業責任だとする場合ではない。
どこまで市民がコミットでき、全体としてどういうシステムをつくっていくかというマスタープランのもとで、システム開発と技術開発をしていく問題なのである。
ごみ問題がこれだけシビアなのは、日本の特殊性からきており、まさに日本が解決しなければならない問題である。
日本がこの問題をきちんとクリアできれば、それはアジア各国に対して大変有効に機能できることになり、アジア向けのモデルになるはずである。

京都会議対応策の優先順位についての私案
<ランク1> 京都会議がなくてもやるもの
小計2.900万トン(9.5%のポテンシャルに相当)
@ ごみ問題の解決
(生ゴミ原料、プラステック+木+紙→リサイクル+燃料)
2.500万トン(7%)
A流通(電車+トラックのシステムなど) 〜500万トン
B休耕田(森林公園などにする) 300万トン(1%)
<ランク2> 低コスト、競争力強化につながりうるもの
小計6.000万トン(20%)
@自動車
(省エネは進むだろうが、買い替えがどのくらい進むかはっきりしない)
〜2.000万トン
A電力(設備の入れ替えについては自動車と同様) 〜1.000万トン
B電気機器 〜2.000万トン
C家・オフィス(断熱)
もっと効率の良い家を作るためにインフラ投資すべき
〜500万トン
D交通(ride&park等) 〜500万トン
Eオーストラリア植林
(農業牧畜効果等:日本との補完性、欧米との距離)
〜300万トン
<ランク3> 高コスト、国際競争力を失わせる可能性
小計 1.000万トン(3%)
@ 製造業 〜1.000万トン



6.ビジョン2030

現在の世界人口は約60億人、約60億トンの化石資源を使用している。
内訳は、20億人が全体の60%を使用し(先進国)、40億人が残りの40%を使用している(発展途上国)。
そして2030年には、世界人口は80億人になると予想されている。
人口増大が予想されるのは発展途上国の人々である。
だとすると、80億人と20億人の差である60億の人間に対して、現在の生活レベルでいなさいとはいえないだろう。
彼らが自分達の生活レベルを上げたいと思うのは当然の考えである。
では、80億人が今の物質的な生活を享受できるとする。
現在のエネルギー使用量を1とすると、60%を20億人が使っているので、
0.6の20億分の80億人=2.4(0.6×80/20=2.4)
現在の2.4倍のエネルギー量が必要となる。

2.4倍のエネルギー消費とは、化石資源以外のエネルギーを使用したとしても、現在の気温から6℃位の温度上昇を引き起こすことを意味する。
これは、破綻を意味する。
そこで私は以下の考え方を提示したい。

【ビジョン2030】
これは化石資源の使用を減らして、以下のように各エネルギーの効率を上げていけば、2030年、更にもっと将来的に、エネルギー使用量の削減が進むという削減目標である。

その結果、今よりもエネルギー使用量を減らせるということである。
また再生可能なエネルギー分野の技術開発も重要である。
2030年に向かって、再生可能エネルギーである水力、バイオマス、太陽電池等の技術開発も同時に行っていけばよい。

人間が選択する科学の技術にはさまざまなものがあると思う。
現在行っているシステムより、ずっといいシステムは限りなくあるはずである。
マスタープランを作る方策はそれぞれあっていいはずで、全体システムのもとで、「原理原則→個別取り組み」という考え方で技術開発を進めていけば、エネルギー問題の解決に向けて可能性は大きく前進するに違いない。

 
「インターネット市民講座」の著作権は、各講師、(社)日本環境教育フォーラム、(財)損保ジャパン環境財団および(株)損保ジャパンに帰属しています。講義内容を転載される場合には事前にご連絡ください。
All rights reserved.