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講師紹介
國部 克彦氏 昭和37年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科助教授。 |
1.はじめに
環境会計への関心が高まっている。
特に、日本企業においては1990年代末頃から環境会計の実践例もみられるようになってきた。
環境庁も、このような状況に呼応して、1999年3月に「環境保全コストの把握および公表に関するガイドライン−環境会計の確立に向けて(中間とりまとめ)」を発表し、環境会計の基準作りに着手した。
環境会計は現在、環境会計システムとして構築されるべき第一段階に到達したといえよう。
日本企業による環境会計への関心の高まりは、ISO14001の普及と無関係ではない。
1996年に発行された同規格は日本企業の間に急速に普及した。
ISOによって環境マネジメントシステムを構築した日本企業およびその事業所は、今度は自社の環境保全活動が環境面のみならず経済面にどのような影響を及ぼしているかに関心を移すようになってきた。
そのためには企業の経済活動を把握するシステムである会計と連係させる必要がある。
ここに環境会計が成立した。
一方で、環境会計は概念ばかりが先行し、内実に関する理解が伴わない傾向がみられた。
環境庁によるガイドラインの公表によってその一部(特に環境保全コストの測定と開示)はかなり明確な形で提示されるようになったが、そのシステムとしての全体像に関しては、日本企業一般にはまだ十分に理解が浸透していない状況にある。
そこで本講演では環境会計とは何かという問題を先端的な事例を含めながら、基本的な事項を中心に解説することにしたい。
環境会計のポイント
環境会計の定義
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環境会計には企業内部で行われる内部環境会計と、外部への情報伝達のために利用される外部環境会計がある。
内部環境会計は経営管理に資することを目的とする環境会計領域で、企業内部の人間が利用する会計システムである。
通常、環境コストは間接費として把握される場合が多いため、個別の製品やサービスに跡づけられることは少なかった。
また、環境への配慮を織り込んだ製品の設計・開発は環境適合製品設計(Design for Environment)と呼ばれるが、この局面 においても環境コスト情報が重要な役割を果たしうる。
3.外部環境会計
外部環境会計は、株主・投資者、顧客・消費者などに情報を提供する会計システムである。
その情報媒体の主なものは財務報告書と環境報告書である。
財務報告書とは一般に企業の年次報告書を指し、日本では営業報告書や有価証券報告書がそれにあたる。
そこで開示される環境会計情報としては、通常の会計システムで捕捉される環境コスト、環境投資および環境負債情報が中心となる。財務報告書上での環境会計情報は当該組織の環境リスクを表現するものである。
たとえば、アメリカをはじめ欧米では、環境汚染に対する将来の浄化責任を環境負債として捉えてその測定・開示に関する会計規則が整備されている。
一方、環境報告書における環境会計情報は企業の環境保全活動の努力と成果を示すものであり、財務報告書における開示よりも包括的なものである。
そこで示される環境計算書には、貨幣単位の環境計算書、物量単位の環境計算書、両者の統合型の環境計算書の3種類を識別 することができる。
これらは法律によって規制されているものではなく、また実務レベルで標準化されているものでもないが、世界的にいくつかの先進的な試みがなされている。
貨幣単位の環境計算書は大きく2つに分類することができ、環境コストとその経済的効果 (原価節減や副収入)を対比させる方法と、環境コストを環境保全効果と対比させる方法がある。
IBMや富士通は前者の形式の環境会計をすでに発表しており、宝酒造は後者の形式を志向しているようである。
なお、1999年に環境庁が発表した環境会計に関するガイドライン(案)では、現時点では、経済的効果 の測定までは含まれていない。
貨幣単位の環境計算書の2類型の事例
T.経済効果対比型:環境投資およびコストがもたらした経済的効果との対比
【事例】 富士通1998年度環境会計実績
(1)と(2)対比させたもの。
経済効果の側面を挙げて(181億円)、費用(150億円)と対比させ、結果(+31億円)をだしたものである。
U.環境保全効果対比型:環境投資およびコストがもたらした環境保全効果との対比
【事例】 宝酒造
11の環境負荷項目の物量数字の対97年度比較改善率を、5段階でウエート付けして、環境負荷削減緑字ECOを算出したもので、宝酒造独自の試みである。
11項目(@〜J)
T.経済効果型だけに注目してしまうと、どうしても黒字か赤字に固執してしまいがちである。
黒字が良いという世論になってしまうと、より大きな経済効果をもたらすような環境保全活動が優先されてしまう可能性が懸念される。
環境費用をできるだけ削減すれば黒字幅は大きくなるわけで、短期的利益を追求する投資家は喜ぶかもしれないが、最近登場したエコファンドに参加するグリーンインベスター達には、賛同できかねないという議論を呼ぶものである。
したがって今後の方向として、どちらかだけが良いというのではなく、これら二つの環境会計の考え方を統合することが重要である。
そのためにも、今後ますます各企業の環境会計情報開示が進む必要がある。
【環境会計情報開示にあたって考慮すべきこと。】
4.環境会計のさらなる発展を目指して
環境会計に関する議論は、環境庁が環境会計ガイドラインを発表したことによって、個々の企業ごとの独自の取組段階から、何らかの標準的な計算基準へ収斂する第一歩を踏み出した。
環境会計が企業に投げかける課題は、環境保全のためのコスト管理という限定的なものではない。
むしろ、経済的利益優先の企業パラダイムから、環境と経済の調和という企業パラダイムへの転換が、果たされるか否かというきわめて重要な企業経営の側面とかかわっている。
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環境会計は21世紀の社会的基盤の一つである。
参考文献
書籍名 | 著者 | 出版社 |
『環境コストの把握及び公表に関するガイドライン』 | 環境庁・環境保全コストの把握に関する検討会 | 1999年 |
『環境会計』 | 國部克彦 | 新世社 1998年 |
『社会と環境の会計学』 | 國部克彦 | 中央経済社 1999年 |
『環境情報ディスクロージャーとと企業戦略』 | 國部克彦・角田季美枝編 | 東洋経済新報社 1999年 |
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