2004年度 市民のための環境公開講座
   
パート3:
環境問題最新事情
第3回:
「ITは環境問題にいかに貢献しうるか?」
講師:
竹村 真一氏(京都造形芸術大学教授)
   
講師紹介
竹村 真一氏

京都造形芸術大学教授。
1959年、大阪生まれ。
東京大学大学院文化人類学博士課程修了。
1996年、プロデュースしたウェブ作品”Sensorium”は、電子アートの国際的登竜門アルス・エレクトロニカでグランプリ受賞。以後、世界初のマルチメディア地球儀「触れる地球」(グッドデザイン賞・金賞)やユビキタス携帯ナビ「どこでも博物館」 「100万人のキャンドルナイト」、構造改革の実態をライブ的に可視化する「日本改革前線マップ」(国連情報社会サミット日本代表サイト・最優秀賞)などを企画制作。
<主な著書>
『呼吸するネットワーク』(岩波)
『宇宙樹』(慶大出版会)
『22世紀のグランドデザイン』(慶大出版会)
『SA(サクセスフルエイジング)―ひとのゆくえ』(求龍堂) ほか

 
はじめに
 
ITは私たちの環境意識や地球環境問題への取り組みに、まったく新たな次元をもたらす可能性を持ちます。インターネットという地球大の神経系を介して地震やエルニーニョなど地球のリアルな動態をモニターする試み、世界初のマルチメディア地球儀の開発、携帯電話を利用した地域環境の生きた経験地図の制作など、竹村氏自身が実践してきたさまざまな取り組みをご紹介いただきながら、地球時代の「経験のデザイン」と環境意識の進化について語っていただきました。
 
 
どこでも博物館
 
“まち全体を生きた博物館に変えてしまおう”というユビキタス地域情報システムの先駆的プロジェクトです。まちを歩いていて、「あれ、ここはどこだろう?」「不思議な坂道だな?」と思ったら、携帯電話でその場所に貼られたQRコードを読み込む、もしくは現在地検索をすることで、ガイドブックや地図をもっていなくても、観光情報やその土地の文化や歴史など、隠れた「場所の記憶」を引き出すことができるシステムです。 また、自分の思いをその場所に“置き手紙”することもできます。自分の訪れた場所に見えないポストイットを貼るように、ユーザーが体験情報をライブコンテンツに残すことができます。
デジタル世界に自己完結するのでなく、「旅」という身体全体で世界と関わるプロセスを、ユビキタス技術を使って豊穣化・多次元化するようなメディア・デザインです。ケータイ時代ならではの新しい「旅」のスタイルの提案であり、物理空間と情報空間、まちの現在と過去が重なりあった、新しい街づくりの実験でもあります。
 
 
さくらスケープ
 
「さくらスケープ」は俳句とITの新たなコラボレーション・プログラムです。日本全国の俳句の愛好家やサクラを楽しむ人々が、ケータイから写真つきで花見の俳句を投稿することで、ネット上の日本列島上にサクラ前線がリアルタイムで可視化されます。日本地図をクリックすると、その場所で発信されたサクラの写真と俳句が見られます。サクラ前線の北上を感じながら、それぞれの場所、それぞれの人のサクラ経験が交差し、共感し合えるプラットフォーム・デザインの試みです。「もみじスケープ」も展開中です。
 
 
100万人のキャンドルナイト(キャンドルスケープ)
 
アメリカのエネルギー政策への反対運動として、夏至と冬至の日に、電気を消してロウソクの灯で2時間スローな夜を過ごしてみようという「100万人のキャンドルナイト」が2003年6月22日から始まりました。この全国規模のネットワーク・イベントへの参加者同士が、それぞれの思いやお互いの存在を実感しうるような「場所」(プラットフォーム)をネット上に創出しました。個々人のケータイから入力された郵便番号(=居住地域情報)に基づき、参加登録者をほぼリアルタイムでウェブ上の日本地図に可視化する仕組みです。 また、ライトダウン時の日本列島を宇宙からの視点で可視化すべく、衛星からの撮影も敢行しました。また東京電力に協力を要請し、消灯前後もあわせた当日の電力使用量の推移を表わしたグラフも掲載しました。
こうした多角的な視点での「可視化」は、現代の情報技術による新たな自己認識の可能性であり、個人の自発性とマクロな社会をリアルな感覚でつなげていくデザイン戦略でもあります。
 

その他、竹村真一先生の「Earth Literacy Program」は以下のサイトで紹介されています。
http://www.elp.or.jp/index.html