2003年度 市民のための環境公開講座
   
パート3:
環境問題の根源を学ぶ
第1回:
レイチェル・カーソンに学ぶ
講師:
上遠 恵子氏
   
講師紹介
上遠 恵子氏
レイチェル・カーソン日本協会理事長。東京都生まれ。東京薬科大学卒。大学研究室勤務、学会誌編集者を経て、現職。エッセイスト。訳書に「潮風の下で」(R・カーソン)、「センス・オブ・ワンダー」(R・カーソン)他。著書に「レイチェル・カーソン〜その生涯」他。
 
 1962年、環境を考える原点と言われる「沈黙の春」が出版されました。原著はレイチェル・カーソン。アメリカの海洋生物学者で作家です。その人となりと著作の全てに溢れる自然との共生の思想をたどりながら、特に最後のメッセージとなった「センス・オブ・ワンダー」を通して、今最も求められている環境教育について共に考えます。
 
 
 環境の世紀と言われる今、環境という言葉を聞かない日はありません。温暖化をはじめとして汚染と破壊は地球規模で拡大し、人間の経済活動がこの惑星を痛めつけています。それはさらに人間の生存をも脅かしかねないと思います。限りなき経済発展はもはや幻想であり、地球という有限な環境のなかでいかに生きていくべきか、人間の文明のあり方を問い直さなければならない時がきたのではないでしょうか。
 「エコロジスト、エコロジカルな発想、エコロジカルな生活、エコファッション、エコグッズ」等々、カタカナ書きのエコロジーと言う言葉は日常的に使われています。私が学生時代であった1950年代、エコロジー(Ecology)はドイツの動物学者ヘッケルが提唱したもので、生態学と訳され生物学の一分野で、生物の生活を周囲のほかの生物や、生物以外の環境(水、空気、気温、光など)の関わり合いの中で考える学問と定義されていました。もちろん、現在でも生態学は重要な学問です。その生態学がカタカナ書きのエコロジーに変化し、意味合いも、社会的な広がりを持つようになりました。
 地球は人間だけのものではなく、そこに住むたくさんの生き物たちと共に大きな生命系を形作っているので、人間の都合だけで資源を使い、環境を変えることは人間の傲りであるという考え方です。この考え方は環境教育の基本であり、多くの人の共感を得つつあります。こうしたカタカナ書きエコロジーの思想の道を遡っていくと、アメリカの海洋生物学者でありベストセラーの自然作家であったレイチェル・カーソンに出会います。
 レイチェル・カーソン(1907〜1956)は、20世紀後半における問題提起の書である「沈黙の春」の著者として知られていますが、アメリカではD.ソローやH.ベストンのようなNature Writerとしても有名です。特に海の三部作と言われる「潮風の下で」「われらをめぐる海」「海辺」で、科学者の目と詩人の心を持つ稀有な作家として高い評価を得ています。
 彼女の生涯をみると、田園地帯で育った幼いときから自然との一体感が貫かれています。そうした感性があったからこそ、「沈黙の春」というロングセラーを書くことができたのです。そしてまた、没後出版された「センス・オブ・ワンダー」は環境教育の分野に大きな影響を与えています。
 その生涯、作品を通して“今”を考えてみたいと思います。
 
 
 レイチェル・カーソンの著作
 1941年 Uunder the Sea Wind 「潮風の下で」上遠恵子訳、宝島文庫
 1951年 The Sea Around Us  「われらをめぐる海」日下実男訳、ハヤカワ文庫
 1955年 The Edge of The Sea 「海辺」上遠恵子訳、平河出版社、
                      平凡社ライブラリー
 1962年 Silent Spring       「沈黙の春」青樹梁一訳、新潮社
 1965年 The Sense of Wonder 「センス オブ ワンダー」上遠恵子訳、新潮社