2005年度 市民のための環境公開講座
   
パート2:
21世紀の新しい自然とのつきあい方  
第3回:
緑化の視点から外来種、在来種について考える
講師:
近藤 三雄氏
   
講師紹介
近藤 三雄氏
1948年神奈川県横浜市生まれ。東京農業大学農学部造園学科卒、農学博士。
現在、東京農業大学地域環境科学部造園科学科教授。東京農業大学大学院造園学専攻博士課程指導教授。日本芝草学会会長でもある。
「農大命・造園命」の看板を掲げ、都市緑化技術の開発、普及啓蒙に専心している。
 
1.都市緑化と外来種・在来種の問題
 
 今日は都市緑化という、地域を限定した視点から外来種、在来種についてお話させていただきたいと思います。
 実は、特定外来生物被害防止法という法律ができる少し前に環境省の担当課長からいろいろな意見を聞かせて欲しいと頼まれ、懇談を致しました。私はその時に、そのような法律ができるということ自体、少し慎重に、少なくとも動物や昆虫・魚・植物を、血が出るものと血が出ないものとは少し整理していただき、法律を制定運用していただきたいと強く申し上げました。例えば、ブラックバスやブルーギルをスポーツフィッシングのために湖や沼に離すということについてはやはりいかがなものかと思いますが、植物は背景や色々な問題が違うのです。
 
 私自身は、生まれも育ちも農大で、数十年間、都市の緑化に命をかけてきたつもりです。高速道路の緑化、公園緑地の整備、工場緑化、傾斜面ののり面の緑化、街路樹をどうするか。最近では建物の屋上や壁面の緑化の問題などに取り組んできました。我々が行う都市緑化の分野での中では、在来種、外来種という見方で植物を峻別していません。緑化の目的に合った植物として適正なものを外来種、在来種、園芸種の別なく、うまく使いこなしてきました。
 今なぜ在来種、外来種問題があるのか。新生物多様性国家戦略や自然再生法、特定外来生物被害防止法といった法律が制定され、様々な施策、事業が展開されております。世の時の流れとしては、新ためて21世紀を迎えて、自然を大事にしたい、再生したい、このような気運が高まってきたということは大変結構なことだと思います。しかしながら、その一連の流れの中で「緑化事業で外来種を多用してきたのは間違いで、これからは在来種で地域特有の景観を作りだす事業に転換すべきである」や「外来植物の中でもA、B、Cは在来の植物を被圧する」、あるいは「外来植物は遺伝子の撹乱を招くから即刻駆除すべきである」などと言われるようになってきました。
 一般の人たちもこのように思っている人が大変多いのではないのでしょうか。都市の中では良いものは外来種でもどんどん使っていこうという、私のような強い主張は少数扱いされる場合が多くなってきました。
 
 
2.セイタカアワダチソウの有用性と駆除の是非について
 
 セイタカアワダチソウは特定外来生物被害防止法ができる前から外来植物、帰化植物、移入種というような言葉で、その駆除がいろいろなところで主張されてきました。また、日本で花粉症が顕在化したのと時を同じくして日本でセイタカアワダチソウもどんどん広がりだしたので、「日本で花粉症が起きた原因の一つはセイタカアワダチソウが蔓延したからではないか」と、ある新聞が報じたのが波及し、セイタカアワダチソウは花粉症の原因植物と思われるようになってしまった。しかし実際は花粉症原因植物ではありません。
 セイタカアワダチソウが日本の多くの土地を席巻したのは、セイタカアワダチソウの根から出る特殊な化学物質で他の植物の発芽生育を抑制する、アレロパシーという現象があったからです。もちろん、ラベンダーなど他の植物にもその機能を持つものがあります。このアレロパシーの働きで他の植物の生育を抑制し、どんどん広がっていったのです。しかし、場所によっては元々生えていたススキに勢力を取り替えされている場所も沢山あります。これは、アレロパシーの働きが自家中毒を引き起こし、セイタカアワダチソウ自らの発芽生育も抑制してしまうからです。
 日本全国に広まってしまったセイタカアワダチソウを駆除するには、膨大な労力・エネルギー・お金を要します。もっと恐いのは、セイタカアワダチソウを駆除した後です。日本は生態学的な隙間「ニッチ」が非常に空いている状態で、色々な植物が外から入りやすい立地環境にあると言われています。セイタカアワダチソウを駆除した後に、花粉症原因植物であるオオブタクサなどが生えてくる可能性があるのです。
 セイタカアワダチソウがそこに群落していることには何もマイナス面がなく、むしろ年に2回くらい刈り取りをしてやると非常に草丈も小さくてすばらしいグラウンドカバーとして活用できるし、茎はすだれの材料にもなります。養蜂業者にとっては蜜源植物でもあります。花がきれいなので、オランダでは園芸用植物扱いをしています。また、セイタカアワダチソウはカドミウムを吸収、除去する力がものすごく大きく、土壌浄化用植物としても大きな注目を浴びています。
 
 
3.外来種悪玉論、在来種善玉論は正しいか
 
 我々はいろいろな植物を使って日本の都市の様々な空間を緑化しております。一部の関係者の中には、これからはそれぞれの地域固有の在来種を使って都市も緑化して、例えば東京と大阪では違う様相の緑を作り上げるべきだという意見もあります。当然自然環境地域や国立公園など、自然の植生が頑張っているところでは、在来種を使って緑化するということを、私も長年主張してきました。しかし、私は都市の緑化の問題に取り組んでおりますが、その範疇であれば、在来植物も外来植物も有用な植物で、それらを区別せず上手く使いこなすべきであると考えております。
 
 まず、緑化において在来種外来種の問題が一番多く昔から議論されてきたのはのり面緑化です。日本は国土が狭く地形が急峻なため、丘陵地や山を造成して道路や住宅団地、公園をつくる空間を生み出してきました。丘陵地や山を造成すると、のり面と呼ばれる傾斜面ができます。日本ののり面緑化技術は、50年ほど前から様々な工法資材が開発されていて、現在特許申請されているものでも1000を超えるような工法資材が世の中に出回っております。それだけ日本はのり面が多く、のり面が裸地のままだと雨や風で浸食されたり、崩れてしまうという防災上色々な問題が起きます。よく高速道路の両側に色々な植物が生えていますが、あれは最初から勝手に植物が生えたわけではありません。雨風で裸地ののり面が崩壊したりしないように緑化しているのです。のり面は植物からすれば非常にやせて乾燥した、生育環境に悪い場所です。そういう場所でもよく育って防災の機能を担う力の大きい植物は、外来の牧草でした。50年前から外来の牧草でのり面緑化をしています。
 これら外来の牧草が今、駆除の候補植物として挙がっております。その理由は、これらの外来植物がのり面以外の場所で在来の植生を駆逐しているという話や、外来の牧草から花粉症が蔓延したということを本や雑誌などで主張した先生がいたためです。
 在来の植物でものり面という厳しい環境の中で浸食防止を発揮できるものがあるのか、我々の先輩教授が何十年も前から研究してきましたが、それに適する植物は見つかりませんでした。唯一、15年ほど前に在来の植物でのり面緑化に使えるものとして注目されたのがヨモギです。日本の空き地や野原にも自生しているヨモギは在来種で、種子でどんどん増えます。しかしヨモギをのり面緑化に使うのには2つの問題があります。一つは、大量の種子が必要になることです。日本産のヨモギの群落から種を取るということはなかなか労力的に無理で人件費も高い。そこで現在は、中国産のヨモギの種子がのり面緑化に使われています。しかし、このことは遺伝子の異なる中国産のヨモギで遺伝子撹乱をしていることになってしまっています。二つ目の問題点は、風媒花の植物のほとんどは花粉症原因植物ですが、ヨモギは草の中で最も強力な花粉症原因植物だということです。
 こうしたことを考えると、在来の植物でのり面緑化をするには現在では困難な状況だといえます。
 
 
4.緑化は何のためにあるのか
 
 ある学者が30年くらい前から「ふるさとの森づくり」という運動をしております。日本の西南の自然林の多くは常緑樹のスダジイやシラカシの林で、それらを使って緑化する活動を展開している。しかし常緑樹が生い茂る公園は薄暗く、公園として利用しづらいものになってしまった。本来、公園は人が利用する場であります。
 我々は都市の緑化を一生懸命やっています。都市の緑化は行政のためでも専門家のためでもなく、一般市民のためです。私は様々な場面を通じて一般の人に街や公園でどういうような緑化を望むのか、どういう植物がほしいのかということを聞いていますが、どんなに対象を変えても、結論的には街や公園にきれいな花と芝生が欲しいというような市民要望が出てきます。日本の公園できれいな花を咲かせるのは花壇です。日本で一番花壇がきれいなのはディズニーランドですが、年間6回草花の植え替えをしていて相当経費がかかっています。普通の公園ではまずできません。
 
 アメリカでは1930年代から道路を作った場合、その面積の数%を在来の草花を使って緑化するということが条例で決められています。草花は種類によって開花期が違うので、いくつも混生させれば冬場をのぞいて1年中ほとんど花が咲き変わっていきます。こうすることで、植え替えをしなくても花のある景観を作り出すことができるのです。
 そこで、日本でもワイルドフラワー(種子の直播が可能で粗放な条件でも美しい花を咲かせる草花の総称)による緑化の手法を確立しようと、15〜6年ほど前から様々な研究を行いました。しかし、日本の野生の草花はなかなか種を大量に集められず、簡単に発芽してくれないものがほとんどです。そこで我々は北米原産の植物をアメリカから輸入して緑化の材料として使ってきました。その草花の代表種であるオオイケンギクが日本在来の植物を駆逐しているという話が出てきたこともありました。私が緑化に使うようになる前の、50〜60年前から日本にあったものもあります。特攻草という別名がついている草です。特攻隊員の人たちが鹿児島の飛行基地で最後に見た花であろうということからその名前がついたということですが、この花は飛行場の様な人工的な場所でしか生えません。自然環境地や国立公園や在来の植物が頑張っているところでは入り込めないのです。
 
 ワイルドフラワー事業で、島根県の志津見ダム建設予定地の耕作放棄地に子どもたちとコスモスの種をまきました。すると、約20haの耕作放棄地がコスモス畑になるのです。子どもたちは自分たちでまいたコスモスの種から花が咲くと喜びます。コスモスが好きな人は多いですが、コスモスも外来種の代表的なものです。
 一番大規模にワイルドフラワー事業を行ったのは臨海副都心です。まだまだ空き地になっている場所が沢山あって、放っておくと雑草や花粉症原因植物が入り込み、我々は大変な思いをしなければいけない。そうした空き地もワイルドフラワーの手法で種子をまくとお花畑になる。ポピーの種子をまいて、花が咲く6月頃にお花つみの会を行ってもいます。自然と人間との文化環境の中での最初の接点は、道ばたの草の花を摘むなどの経験だと思います。しかしながら、都心で花壇の花を摘んでしまうといけないことだと言われてしまう。多分若い人はお花摘みをしたという経験がないのではないでしょうか。しかし、先程のコスモスやポピーであれば、誰でも好きなようにお花摘みができるのです。
 
 競技場や公園などの広場で使われている芝生にも、在来種・外来種の悩ましい問題があります。
 私が芝生の計画の責任者となっている横浜国際競技場(日産スタジアム)の芝は、2002年のワールドカップで「FIFA国際サッカー連盟」から世界一の競技場の芝生というお墨付きをいただきました。競技場や校庭の芝生では、冬も緑の芝生が求められますが、日本在来の芝は冬に休眠して褐色になってしまうので、常緑という競技場の目的が達成できない。冬も緑なのは外来の芝です。現在日本でJリーグなどが行われているような競技場はすべて常緑の芝です。
 また、校庭の芝生化も義務化すべきだとも、私は文部科学省に言っています。校庭の芝生化は、ヒートアイランドの緩和という面でも注目されていますが、もっと基本にあるのは今の子どもたちの深刻な体力不足、運動不足を解消するために、身近な空間に芝生の広場をつくりあげることです。
 約4年前に杉並区の和泉小学校は杉並区の区長が3300万の予算で外来の芝を用い校庭の芝生化を行いました。そこへ私どもの大学院生をつれて見学に行き、芝生の上に車座になって校長先生も交えて校庭の芝生について論議したことがあります。議論の一番の中心は、3300万かけて校庭を芝生化したことについてでした。それだけのお金があれば色々な教育設備が整います。最初、学生たちの意見は半々に分かれていました。そんなことをやっているうちに学校のチャイムが鳴ると、子どもたちが昇降口から出るなりランドセルを放り出し、靴を脱いで芝生を駆け回りだすのです。その子どもたちを見た院生全員が3300万は安いという意見になりました。
 
 
5.これからの都市緑化の模索
 
 日本では、自然再生や生物多様性といった事例を受けて、数千箇所ものビオトープが整備されておりますが、いたるところに自然のミニチュアを作っても維持管理していけるのかと私は思います。ビオトープを作ればそれで全て自然に配慮したことになるのでしょうか。最初はヨシやアシを植えて「春の小川」というコンセプトでつくられたビオトープも、アレチウリ、オオブタクサ、そんなものしか繁茂していない藪になってしまって、管理している人は夏場汗みどろになってそういう草の除去をしているという状況です。
 外来植物も在来植物もきちんと管理しなければ、我々が快適に思うような状態に都市の緑を維持することができないのです。手を抜けばみんなやられて、最終的には全て強害雑草の天下になってしまう。私が20年近く指導してきたワイルドフラワーの緑化の現場も、手を抜かれた所は全て雑草の大群生地になっております。
 
 私が住んでいる横浜の港北ニュータウンに鴨池公園では、岸辺を彩るキショウブが水辺の雰囲気を醸し出して、花の時期はたいへんすばらしい。このキショウブは水質汚濁の原因物質であるチッソやリン酸を吸収する力がものすごく強い。しかしながら、このキショウブもまた外来植物で、駆除の候補の対象に挙がってきました。
 21世紀に入って、単なる景観的な美しさだけではなく、バイオレメディエーションという植物の潜在的な能力で汚れた水や汚れた土を浄化するということが話題になっております。我々はより浄化能力の高い植物を見つけ出そうと色々な研究をやっておりますが、その能力の高い植物の多くがセイタカアワダチソウやキショウブなどの外来種であります。外来種の中にはそういう効用を持つものもあるのです。在来の植物でキショウブに代わって景観的な効果も持ち、水質浄化能力もある植物があるものは今のところ見つかっていません。
 
 目黒区役所には私がデザイン竣工した屋上緑化があります。2005年10月から公開されていますが、ぜひ見に行って、屋上もこんなに立派な庭になるのだということを実感していただきたい。そこでは、屋上という過酷な条件のなかで合致するような新しい植物を選び出そうと、外来植物、在来植物、織り交ぜて様々な植物を使っています。特定外来生物被害防止法が制定されて、一部の関係者が、今後は屋上緑化にも外来種は使わずに在来種を使うべきだという論調を発表しておりますが、在来種という総称的な言葉だけで具体的な植物を挙げてくれない。我々も、あえて在来植物を使っていないのではなく、乾燥して基盤の薄く、風の強い屋上という環境の中で育ち得る多くの植物は外来の植物なのです。
 
 私も世界中を見て歩いたわけではありませんが、あまり無理に外来の植物を使い過ぎる問題も無くはないです。中国の雲南地方の多くでは、国の施策として国土緑化を推進しております。その施策で使われている植物がほとんど1種類のユーカリで、山も道路も、あたり一面ユーカリだらけになっている。これには私もちょっと危機感を感じました。
 
 緑化における在来種、外来種の扱いについてはみなさんも慎重にご対応いただきたいと思っておりますし、我々も今後問題が起きないように色々検討をしなければと思っております。我々が都市を緑化するのは一般市民のためであります。そういう人たちが喜ぶような緑を作り上げるためには外来種も時には積極的に使うべきだと、これが我々人間の叡智だと思います。