2005年 市民のための環境公開講座
   

パート1:

環境問題最新事情  
第4回:
CDM(クリーン開発メカニズム)とは何か
講師:
二宮 康司氏
   
講師紹介
二宮 康司氏
英国立サリー大学経済学部博士課程修了(経済学博士)。2001年より(財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候政策プロジェクト・研究員。2004年より環境省・地球環境局地球温暖化対策課(京都メカニズム担当)へ出向。林野庁CDM人材育成事業委員会委員、同CDM/JI植林推進ワーキンググループ委員を歴任。気候変動枠組条約締約国会議(COP8〜COP10)、同条約第16〜21回補助機関会合(SB16〜21)では政府代表団として国際交渉に参加。
 
はじめに
 
 京都議定書の発効によって、日本は温室効果ガス排出の大幅な削減を国際的な約束として実行しなければならなくなりました。しかし、日本の温室効果ガス排出は増加しつづけており、削減は決して容易なことではありません。このため、CDM(クリーン開発メカニズム)の活用が注目を浴びています。CDMの仕組みなど基本から実際までをたどり、今後の方向性について考えます。
 
 
1.クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)とは
 
@ 京都議定書の目標達成のための柔軟性措置である京都メカニズムのひとつ
A 途上国での排出削減分を排出枠としてカウントし、それを日本などの先進国へ移転することによって先進国での排出削減とみなす仕組みのこと
B 排出量取引制度の一つの変形と考えてよい
 
 国連気候変動枠組条約(UNFCCC、1994年発効)で定められた「先進国全体からのGHG(温室効果ガス)排出量を2000年までに1990年レベルまで戻す」という数値目標の達成が困難になったため、それを補完するものとして京都議定書は作られた。1997年に京都での第3回気候変動枠組条約締約国会合(COP3)において採択され、2005年2月16日に発効した。150カ国が批准しており、排出削減目標の対象国は、先進国の62%、全世界の約3割をカバーしているが、2001年に米国のブッシュ政権が離脱し、それに続いてオーストラリアも離脱宣言をした。
 
 京都議定書においては、日本を始めとする先進国は2008年から2012年の5年間の間で、GHG(温室効果ガス)排出量を一定量削減しなければいけない(日本の場合6%)と決められている。この削減目標を持つ国を附属書I 国(日本やアメリカなどの先進国やロシア・東欧などの旧社会主義国を含む)と呼ぶが、開発途上国は非附属書I 国に分類され削減目標がない。
 
 この附属書I 国と非附属書I 国の分類は、気候変動枠組条約に明示されている「気候変動問題に対しては世界中の国々が共通の責任を持っているが、先進国と途上国の責任の大きさには差異がある」との基本原則に従ったものである。しかし、先進国(附属書I国)だけが頑張ってGHG(温室効果ガス)の排出を削減しても、途上国が大量に排出すれば意味がない。そこでCDMの仕組みを使って、途上国で削減した分を先進国の枠として移転することにすれば、中国やインドなど途上国での排出削減事業が促進されるはずである。3つある京都メカニズムの中で、CDMだけが先進国と途上国の間の排出枠のやり取りを可能としている。
 
 
 CDM事業では、先進国と途上国との長期に亘る協力関係を重視しており、両者が協同でGHG排出削減事業に取り組むことが必要である。今までの国際協力は先進国から途上国への一方向の協力であったのに対して、CDMは双方向での協力であり、ここが今までの国際協力と大きく異なる点である。CDMはより発展性のある仕組みであると言える。
 
 
2.京都議定書の排出削減数値目標達成の遵守評価
 
 
 1990年の排出量実績を5倍して、そこから6%引いたもの(これを割当量という)に、CDMによる排出枠(CER)を加算したものが日本の持つ排出枠総量である。これに対して、2008年から2012年までの5年間の排出量を合計したものが約束期間における排出量実績であり、前者と後者の大小関係によって京都議定書の遵守・不遵守が評価される。例えば、排出枠総量が排出量実績より大きければ目標達成(遵守)であり、逆に少なければ目標未達成(不遵守)となる。日本の目標達成のためには、CDMによる排出枠がどれだけプラスされるか否かが決定的に重要になってくる。
 京都議定書における日本の目標は、1990年と比べて排出量を6%削減することであるが、実際には、日本の排出量は1990年から2003年までに8.3%増えてしまっている。このため、現時点から14.3%の大幅な削減が必要となっている。この削減量を達成するために、『京都議定書目標達成計画』が今年の4月に閣議決定されたが、その中で、京都メカニズムを活用して1990年比1.6%相当分の排出枠を獲得することに決まった。この1.6%は約1億CO2トン分に相当するが、議定書の目標達成可否がこのCDMでの排出枠の獲得にかかっている。
 
 
 
3.CDMの種類
 
 CDMには大きく分けて、排出源CDMと吸収源CDMとある。排出源CDMは、発電所、製鉄所、ゴミの埋め立て地など現状において排出されているGHG(温室効果ガス)を削減した分を排出枠とカウントするもの(一般にCDMといった場合、排出源CDMを指す)。一方、吸収源CDMは、植林(Afforestation)と再植林(Reforestation)によって二酸化炭素を吸収させた分を排出枠としてカウントするもの。植林CDMによって植林した木が吸収・蓄積した二酸化炭素量を計算してクレジット(CER)が発行されるが、木に蓄積された炭素は、山火事で燃えてしまったり腐ってしまうと、再び大気中に放出される可能性がある。そのため植林CDMから発行されるクレジットは、一定期間後は有効では無くなってしまう「非永久のクレジット」として扱われる。これが植林CDMが進みにくい大きな原因となっている。
 
 
4.小規模CDM
 
 風力発電/太陽光発電/水力発電/省エネルギー/エネルギー転換/植林・再植林といった特定のカテゴリーで規模の小さいものは別枠に扱い、コスト面などで優遇している。途上国での持続可能性への貢献が高く、かつ小規模のCDMを推進するためで、認定審査も通常規模のCDMと比べてハードルが低くなっている。
 
 
5.排出削減の対象となるGHGの種類と温暖化係数
 
 GHG(温室効果ガス)は、それぞれのガスによって温暖化をもたらすパワーが違う。例えば、二酸化炭素の温暖化係数を1とすると、メタンは21倍、一酸化二窒素は310倍、HFC23は11700倍、SF6(六フッ化硫黄)は23900倍の温暖化パワーを持っている。これらの数値を温暖化係数と呼ぶ。CDMでは、実際に削減されたGHGの量に温暖化係数を掛け合わせた量が発行されるクレジット量になるため、温暖化係数が大きいガス(HFC23など)を削減するプロジェクトではクレジット量が膨大となり経済的に魅力的なプロジェクトとなる。一方、温暖化係数が小さい二酸化炭素を削減するプロジェクトは獲得クレジット量が少ないため、経済的魅力が小さく、事業が進まなくなる問題が出てきている。
 
 
 
6.CDMの参加要件
 
 投資する側、受ける側両国が京都議定書を批准していること、両国共に投資担当の政府機関が決まっていること、などを満たす必要がある。投資国側には、その他にも色々な要件が課せられており、これを満たさなければCDMからのクレジットを投資国に移転できないことになっている。日本も来年の末までに諸条件の整備を終えて、国連の審査を受けることになっている。
 
 
7.CDMとして認められるプロジェクト
 
「持続可能な開発に貢献」できるプロジェクトであれば、原則として認められる。
*原子力は除外
 * 資金としてODA(政府開発援助)の流用はできない
 * 国連の審査をパスしなくてはいけない
 * 追加性の原則を満たさなければならない
 
 
8.追加性の原則
 
 CDMプロジェクトがなかった場合に排出されていたであろう予測排出量とCDM実施後の実際排出量の差分が、CDMを行ったことにより削減された排出量でありクレジット量となる。この削減量が多ければ多い程プロジェクトとして経済的魅力が高くなる。この予測排出量をベースラインと呼び、この算出に厳しい審査がある。つまり、CDMを実施しなければ予測排出量のままであったということを証明してみせなければならず、これを追加性の原則という。この追加性の原則の立証がCDMプロジェクト実施にあたっての最大の難関となっている。
 
 
9.CDMに関連する組織
 
 * COP/MOP:最高意思決定機関。CDMの手続きを決定。本年11月モントリオール(カナダ)で第1回会合を開催予定
 * CDM理事会:CDM事業を実質的に管理・監督。メンバーは先進国8人、途上国12人の計20人(権力集中が問題になっている)。
 * 指定運営機関(DOE):CDM理事会の信任を受け、CDMプロジェクトの有効化審査、認証・検証を行う法人組織。
 
 
10.CDMプロジェクトの手続きの流れ
 
 
 
 プロジェクト実施に至る様々なステージにおいて手続きが必要であり、高いハードルとなっている。現在、日本政府が承認したCDM申請案件は16件。全世界で正式登録まで完了しているプロジェクトは12件である。
 
 
11.CDMプロジェクトの実例
 
(1):韓国ウルサン市でのHFC23破壊プロジェクト
 オゾン層を破壊するフロンの代替フロンを作る過程で副生物として出来てしまう強力な温室効果物質(HFC23)を破壊するプロジェクト
(2):廃棄物処理場でのメタンガス回収
 ゴミ処理場で埋め立てた生ゴミから発生するメタンガスを回収するプロジェクト。このメタンガスを回収して燃やして二酸化炭素にすると、温暖化係数が21から1になるのでその差がクレジットになる。また、このメタンガスを燃やして発電所にすると一石二鳥のプロジェクトとなる。
 
 
12.今後のCDMについて
 
 CDMは2008年から2012年の第一約束期間のみに有効な制度で、それ以降の事はまだ決まっていない。2012年以降はアメリカや中国、インド、ブラジルなどの国も含めた新しい枠組みの交渉が今年の冬から開始されるが、そこにCDMが組み込まれるかかどうか、最終的な結果を見てみないと分からないのが現状である。しかし、2012年以降のポスト京都という枠組みの中で、何らかの形でCDMが継続されるのではないかと思う。今CDM事業を行っている事業者のメリットを考えても、継続されるべきである。
 
 
13.今後のタイムフレームについて
 
 約束期間が2012年までだが、実際計画を立ててからCDMを始めるまで5年程かかっているため、今からCDMを計画してもクレジットを獲得できるのは2010年からで第1約束期間が終了する2012年までにたった3年間しかない。CDMプロジェクトを開始する時期としては、これから2〜3年が重要な期間になると思われる。
 
 
より詳細な情報が必要な方はこちらをご覧下さい。
環境省地球温暖化対策課編『図説・京都メカニズム』(第4.0版)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/illust_3ed/ja.pdf [PDF894KB]
(環境省Webサイトからダウンロード可能)