市民のための環境公開講座2024

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。

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9/18 18:00 - 19:30

脱炭素社会のこれから 私たちにできること

竹内 昌義 氏 東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科 教授 株式会社エネルギーとまちづくり社 代表取締役

2050年の脱炭素化に向けて社会は大きく変わっています。建築では住宅の高断熱高気密住宅が進み、今まで使っているエネルギーが半分ほどになります。そこに太陽光発電のパネルを載せるとエネルギーゼロの家を作ることができます。クルマも走るだけではなく、電気を貯めるなど社会のさまざまなことがが変わってきます。これらは現在の私たちの身近な私たちの暮らしでも応用可能です。そういった色々なことをご紹介していきます。

講座ダイジェスト


脱炭酸社会の切り札、再生可能エネルギーと幸福度の関係

脱炭素社会の実現には、再生可能エネルギー100%で社会が回ることが大切です。再生可能エネルギーは不安定と心配する方もいますが、日本よりも進んでいる国では、再生可能エネルギーが増えても問題にならない仕組みが整い始めています。



私は最近、世界幸福度ランキングの上位の国は、再生可能エネルギーが40%を超えていることに気づきました。ランキング1位のフィンランドは44%、2位のデンマークは70%が再生可能エネルギーです。3位のスイスは27%ですが、発電自体は80%を超えています。ちなみに日本は再生可能エネルギーが20%入っていますが、幸福度ランキングは50位台~60位台ですから、社会をどんどん変えていくことが必要です。



省エネに不可欠なのは、断熱性能の向上

日本のエネルギーのうち、34%が建物で使われています。その半分は住宅、半分は業務用の建物です。また、暖房に3分の1、給湯に3分の1、家電に3分の1を使っています。人口減少時代を迎えていろいろなものを効率化する必要がありますが、エネルギーも使う量を減らして、それでも暖かくて快適な家をつくることが大事だと思います。




このような中で2025年に建築物省エネ法が改正されて、等級4、5、6のうちの等級4が義務化されます。屋根に20㎝、壁に10㎝の断熱材(GW=グラスウール)が入っていることを意味しますが、それは等級5、6も一緒で、異なるのは窓です。アルミサッシだけだと熱伝導率が高いので、外の冷たい空気や熱い空気を中に入れてしまいますが、等級を上げてアルミ樹脂複合サッシ(ペアガラス)にすると、だいぶ緩やかになってきます。等級6でも住宅で使うエネルギーが半分以下ぐらいになるので、まずはそこまで断熱性能を高めたいと思っています。




もうかる脱炭酸社会のためにも不可欠な高断熱化

将来の理想型は、高断熱高機密な家の屋根に太陽光発電を積み、EVに電気を供給したり、発電量の多い日中にエコキュートでお湯を沸かしたりすることです。すると快適で健康になれます。脱炭素社会には「もうかる」という側面もあります。というのも日本は毎年30兆円もの化石燃料を外国から購入していますが、それが不要になります。また、空き家問題解決に500兆円投資されていますが、建てては壊すの繰り返しになっています。その点、高気密高断熱な家に建て替えていけば、産業や雇用が創出される上に、コストをかけて遠くで作った電気を運んでくる必要がなくなります。




今は2050年に脱炭素化するという目標があり、2030年ぐらいまでに新築の建物はゼロエネルギーにしていくといった目標もありますが、あと6年ぐらいしかありません。日本も早く本気になることが大切です。それには断熱をきちんとすることが大事です。


すでに建っている建物にも必要な断熱

2030年以降、2050年に向けて求められているのが、すでに住んでいる家もどんどん高断熱化していき、ゼロカーボン化を目指すことです。そのため戸建てで断熱性能を確保する「性能向上リノベ(リノベーション)」が方々で進められています。私たちは寒い状態、暑い状態だと体の具合が悪くなるけれど、断熱をすると健康になることを訴求しています。



9月にNHKで「家が暑すぎる問題」という放送がされました。多くの方が「高齢だけれど、やってみたらよかった、長生きできる」と話されています。ところが暑い部屋に住んでいる方は、天井にホットカーペットが張ってあるようだと言います。サーモグラフィー映像を見ると、エアコンをかけても冷えているのは吹き出し口だけで、部屋全体が高い温度を示す真っ赤です。このことからも断熱の必要性がわかります。

断熱は効果的なところから順番にやっていくのが一般的です。最も効果的なのが、夏に熱の74%が入ってきて、冬は熱が逃げていく窓です。次が玄関で隙間風を防ぎます。集合住宅の場合、玄関の扉が鉄でできていますが、コルクや断熱材を貼るだけでも入ってくる熱が変わります。その次に天井、床に断熱材という順番で、壁は最後でいいです。このうち窓の改修には「先進的窓リノベ2024事業」という補助金が使えて、工務店が書類を書いてくれます。1軒で窓リノベをやるときの半分ほどが補助されるのでお得です。



「エコDIY」基本のき

自分でやりたいという方には「エコDIY」をお勧めします。暖かくするのに大切なのは、断熱性の高い空気が動かない層を作ることです。空気は風が吹くと逃げてしまうので、きちんと気密を保つことが大切です。人間ならばセーターを着ることが断熱で、ウインドブレーカーを着ることが気密と言えます。



また、家の場合は放射(離れた壁との熱のやりとり)が大事ということも覚えておいてください。体感温度は室温と放射温度の平均値で表されるので、屋根が50℃や45℃ぐらいで室温が30℃だと、体感温度は37℃ぐらいになってしまい、熱中症になりやすくなります。



断熱のコツは6面をくるむことです。また、隙間風を抑えることや、上昇気流をなくすことも大切です。空気をためる方法はさまざまですが、ハニカム構造に空気がためられる断熱ブラインドや、樹脂製のツインポリカがお勧めです。また、2枚のガラスの間に空気が入っているペアガラス、3枚のトリプルガラスもお勧めです。





断熱性が高まると、春や秋の心地いい日のように「ストレスを感じない」とも言われます。皆さんが今住んでいる環境も、わずかでもアップグレードできれば、より快適で幸せな家になると思うので、ぜひ断熱の情報を仕入れてみてください。


ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1建築物省エネ法が改正は、マンションやオフィスにも適用されるのでしょうか。また、集合住宅でも「先進的窓リノベ2024事業」の補助金を使えるのでしょうか?

回答オフィスはまだ対象ではありませんが、マンションでも義務化が始まります。決して十分とは言えませんが、始まることに意味があると思います。窓リノベの補助金はマンションでも借家でも使えますが、借家の場合は大家さんと申請する必要があります。工事費は例えば住んでいる方が払って「退去するときにはあげます」といった話をすると、大家さんにとっても家の価値が上がるので、悪い気はしないと思います。

質問2義務化のレベルを、エネルギーが半分ぐらいになるという等級6にいきなり上げるのは難しいのでしょうか?

回答今は2025年~30年のできるだけ早いうちに等級5まで上げるという話になっていますが、等級6はなかなか難しいところです。東京よりも西側では窓を樹脂窓にすればいいんですが、価格が上がってしまうので義務化が難しいという風潮があります。 少しずつ等級を上げていくことで窓がたくさんさん売れるようにして、価格を下げることが大切だと思います。

質問3省エネで住宅とビルとの違いがありますか?

回答例えば教室は64㎡ぐらいに30人ぐらいが入ります。家は倍の128㎡程度でも5人ほどしか住んでいません。このように人口密度が違うので、人の内部発熱が全く異なります。でも、建物の外皮(外周)でどのように熱を入れるかといったことは、あまり変わらないはずなので、学校なども住宅のように断熱をきちんとすることが大事です。ちなみに住宅の高断熱化はどうしても高くなりますが、ある時点で元が取れます。きちんと断熱した住宅はエアコンが各階に1台ずつあれば十分ですが、断熱が不十分だと各部屋に必要です。15年ぐらいたってエアコンが次々と壊れたとき、断熱をきちんとした家ならば2台を替えればいいので安くて済み、コストが逆転するんです。この原理は学校やオフィスでも変わらないはずですが、大きな建物を設計する人に、そのことをうまく伝えられていないと感じています。